| 夕方のジムの練習を終えてバイトも終わり、再び夜になってロードワークに出た。 この時期の夜はもう涼しい。 空気はあまり湿気を含んでいないし走るのには快適な条件となっている。 ふと、車道を挟んで向こう側に見た人影に溜息を吐く。 何だってこんなに遭遇するんだろう。 無視して走り続けようとも思ったが生来の面倒見のよさゆえに足を向けてしまった。 「お姉ちゃん...」 の足にしがみついて怯える弟に「大丈夫だよ」と返しては目の前の少しガラの悪そうな少年たちを睨めつける。 弟がまだ眠たくないと言い張るので仕方なく夜の散歩に出かけた。 あまりこの町になれていないから繁華街は避けたつもりだったが、それでも変なのに当たってしまったのだ。 「おいおい、何だよその目は」 そう言って少年の一人がの肩を強く押す。 その力を受けてはそのまま尻餅をついた。弾みで足も捻ってしまったようだ。 それでもめげずに彼らを睨む。 「いいから、弟。姉ちゃんの財布、オレらに貸してくれって。な?これ以上姉ちゃんと怖い目に遭いたくないだろう?」 「小さい子を連れている女の子を恐喝って、どうかと思うけど?」 第三者の声に少年たちは振り返った。 自分たちとそう年齢の変わらない少年が立っている。 「何だ〜?」 彼らは宮田に体を向けてそれぞれが睨みつける。 はあ、とこれ見よがしな溜息を吐いて宮田は彼らを相手にせずにを見た。 「姉ちゃん、大丈夫?」と弟らしき少年が目に涙を溜めて姉の顔を覗きこんでいた。 運動神経が鈍いうえに、もしかしてトラブル体質なのか? そんな事を思いながらを見ていると少年の一人が拳を向けてきた。 宮田はそのままステップワークのみで彼らと少しの間遊んだが、段々面倒になってリーダー格の少年に向けて左ジャブの寸止めをした。 自分たちと全くキレの違うパンチを目にした少年たちは逃げるようにその場から駆けていった。 「大丈夫、さん」 呆れたように宮田が声をかけた。 「宮田..君?」 教室で見る彼とは少し雰囲気が違って見えて少し混乱したが、今目の前にいるのは面倒くさそうに自分の話に相槌を打ってくれるクラスメイトの宮田だ。 「何やってんだよ。立ったら?」 座り込んだままのに手を差し伸べる。 「あ、うん。ありがとう」 宮田の手をとっては立ち上がる。 左足首に鈍痛が走り、眉を顰めるがすぐに何でもないような表情を作った。 「お姉ちゃん?」 その異変に気づいたのは弟で、宮田にはそれは分からず 「じゃ、気をつけて帰れよ。もう遅いんだから」 と声をかけて背を向ける。 「お姉ちゃん、大丈夫?」 不安いっぱいに自分を見上げる弟の頭を撫でて「大丈夫だよ」と返して一歩歩く。 痛い。うん、かなり痛い... 確認するまでもなくきっと足首は腫れているだろう。 明日学校に行くのにどうしよう。 そんなことを考えながら左足を引きずって家に向かう。 「お姉ちゃん、大丈夫?」 またしても不安そうに弟が声を掛ける。 「うん、大丈夫。帰ろうね」 しかし、1歩歩くごとに大きくなる痛みはどうにかならないものだろうか。 ふと、目を向けると弟が目にいっぱいの涙を湛えている。 「え...」 何だか嫌な予感がする、と思っていると弟が泣き始めた。 「お姉ちゃんが死んじゃうーーーー!」という言葉と共に。 「いや、死なないから。ちょっとコータ?」 幼い子の泣き声と共に何だか不穏な単語が耳に届いた宮田は足を止めて振り返る。 困った様子でが弟に何事か言い聞かせているようだ。 それでも、弟は「お姉ちゃん、死んじゃやだー」と泣き叫んでいる。 乗りかかった船だ... 諦めに近い心境で宮田は彼女たちの方へ再び足を向けた。 「さん、どうしたんだよ。帰らないのか?」 「え!?あ、宮田君。ううん、帰る。何でもない」 そう返すが左足に体重をかけていないことに気づいた。 ああ、変なこけ方していたからな。 それに、彼女は体が硬いとかそういうことも言っていた気がする。 「お姉ちゃん、救急車呼ぼう?」 心配そうに見上げる弟を「いや、大丈夫。歩いて帰れるからね?」と宥めながらも何だか困った様子は続いている。 「ほら」と宮田が背を向けて膝を折る。 「えーと...」 「負ぶってやるから」 「いいよ!そんな、悪いよ!!」 は慌ててブンブンと手を振るが「ホント!?」と弟は嬉しそうな顔をする。 姉弟、笑い顔が似ているものだな... そんな事を思いながら宮田は再び「ほら」と促した。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんが負んぶしてくれるって言ってるよ」 「コータ!いいよ、宮田君。本当に。歩けるから。宮田君、ランニングかなんかの途中なんでしょ?ジャージだし」 弟を叱り、宮田に遠慮する。 「さっきから全然歩けていないだろう?ほら、早くしてくれって。まだロードワーク終わってないんだから」 宮田がダメだしとばかりに促すと「えーと、じゃあ」とも諦めて宮田の肩に手を置いた。 「重いよ?」 「覚悟の上」 そんな挨拶代わりの会話をしてが宮田に体重を掛ける。 「お姉ちゃん、大丈夫?」 「うん、大丈夫。ありがとうね、宮田君。何だかずっと助けられっぱなし」 「仕方ないよ」 諦めました、といった感じに宮田はそう投げやりに返し、背の低い幼いの弟の歩幅にあわせて足を進める。 まあ、思ったほど重くなくて良かったな... そんな事を思いながら宮田はゆっくりと弟を置いていかないペースで彼女たちの家に向かった。 |
桜風
08.10.4
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