| 日曜日にジムに向かっていると見た少年がトボトボと歩いていた。 もの凄く寂しそうな頼りないその背中は、昔見た記憶がある。 実際、見たことはないけどきっとあんな感じだったんだろうと思う。 確か名前は... 「コータ」 宮田が名前を呼ぶと驚いたように少年は振り返った。 「宮田のお兄ちゃん!」 コータは嬉しそうに笑って駆けてくる。 「こんにちは!」 「ああ...姉ちゃんは一緒じゃないのか?」 一緒に居ると思っていて周囲を見渡した。小学校に上がったばかりの子供がこんなところで独りでウロウロするなんて思えないから。 「お姉ちゃんは今日はパパのところなんだ」 その話を聞いて首を傾げる。 「“今日は”?」 「...うん」 頷いたまま顔を上げないコータを不思議に見た。 「宮田のお兄ちゃん」 掠れる声でコータが名前を呼ぶ。 「何だ?」 「“リコン”って知ってる」 突然目の前の小さな少年の口から出た単語に少し驚きながらも「知ってるな」と返した。 自分の親もその経験者だ。 「リコンしたらパパとママは一緒に暮らせなくなるんでしょ?」 「そうみたいだな」 「ボクのパパとママはリコンになっちゃったんだ。それで、ボクはママと一緒が良いって言ったの。そしたらお姉ちゃんはパパが一人だと寂しいだろうからってパパと一緒に暮らすことを選んだんだ。でも、ボクはお姉ちゃんと一緒が良いって言ったから学校がある日はママの方に来てくれているの」 ああ、そうなのか。何となく納得した。 彼女も凄く弟の事を気にかけている。あるいは過保護といわんばかりの様子で。 その理由を今聞いた気がする。 「そうか。良い姉ちゃんだな」 宮田が言うと嬉しそうにコータが頷く。 「で、今日は日曜だから姉ちゃんが帰ってくるのか?」 「うん」 「...ママは?」 母親の元を選んだというのなら、その人が面倒を見るのが当然だと思う。親というのはそういうものではないか。 ...よく分からないが。 「ママは、いつも忙しいから休みの日は寝てるって。ボク、一緒に遊んでって言えなくて...だから、お姉ちゃんを迎えに行こうって思いついたんだ」 得意げにコータは言う。 「駅までか?」 「うん。ボク、駅までは行けるんだ」 凄いでしょ?と視線が問うた。 「凄いな、独りで姉ちゃんを迎えにいけるなんて」 宮田に褒められて益々嬉しそうな表情を浮かべたコータは上機嫌に「じゃあね、宮田のお兄ちゃん!」と手を振りながら駅へと向かっていった。 「おう、宮田が小動物と戯れるって珍しいな」 振り返るとが熊と称した鷹村が立っていた。 「そう、ですね」 「知ってるガキか?」 「この間、河原でロードしていたときに俺のクラスメイトが居たでしょ」 「卵の...」 ああ、彼女はこの先一生きっと「卵の」という枕詞をつけられるんだな、と何となく思いながら「ええ」と宮田も肯定した。 「ほう?あの姉ちゃんの弟か?」 「はい。お姉ちゃんを駅まで迎えに行くそうです」 「ほー」と少しだけ興味を示した鷹村があの少年が消えていった道の先を眺めた。 「お前に懐く小動物がいたんだな」 言われて宮田は肩を竦め、 「まあ彼にとっては俺は恩人らしいですから」 と返した。 足を挫いたお姉ちゃんを背負って家まで連れて帰ってくれたとても良い人とインプットされたらしい。 家まで送ったときももの凄く感謝された。 宮田自身子供は苦手だ。 わがままだし、理屈が通らないし。何より、何が言いたいのか分からない。 その点、コータは分かりやすい。 姉が一番で、姉の味方は自分にとっても味方であるようだ。 彼の世界はもしかしたらを中心に回っているのかもしれない。 もし、自分に姉が居たらそんな感じになっていただろうか。 「それは、ないだろうな」 何となく呟く。 「おう、どうした宮田」 「いえ。鷹村さんも今からジムですか?」 独り言を聞かれたかもしれない気まずさを誤魔化すかのように話題を変えた。 話しながら何となく自分とコータを重ねてしまった。 決定的に違うところは、彼には自分を愛して一緒に居てくれる姉がいることだ。 少しだけ羨ましいと思った。 |
桜風
08.10.11
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