| 宮田が学校から帰っていると後ろから相変わらず大して速くないがダッシュしてきて宮田の肩をぽんと叩く。 今日は彼女は掃除当番でスタートダッシュが出来なかったのだ。 「宮田君、ゆっくりじゃない」 「さんの走る速度ほどじゃないよ」と言おうと思ったが、やっぱりやめた。その後の反応を考えたら賢明な判断だと自分で評価する。 公園から子供たちのはしゃぎ声が聞こえた。 が、その中に「返して!」と叫び声が混じっている。 子供同士の行き過ぎたじゃれ合いか、と思って視線を向けると「返して」と叫んでいるのはの弟のコータだ。 そして、彼が追いかけている少年たちはランドセルを投げている。 真新しい綺麗なランドセル。今は砂にまみれているが、大切に使っていると分かるそれだった。 彼らの取り巻きはコータと同じくらいの体格だが、ランドセルを投げ合っているのは明らかに上級生だ。 「ちょっと、あんたたち!」 「おい」と宮田が制止のために声を掛けるが、は駆け出していた。 コータを苛めていた小学生たちは突然現れた大人に驚いた表情を浮かべた。 「な、何だよ。子供のけんかに大人が口を出すなよ」 リーダー格と思える少年が言った。 「何が、子供のけんかよ。あなた何年生?ああ、6年生ね。6年生が1年生を苛めるのはいいことなの?!しかも、よってたかって大勢で」 「だ、だって...!そいつママしか居ないんだぜ」 「残念でした!お姉ちゃんも居ます!!てか、コータ。あんたも泣いてないでガツンと言いなさい!!」 てっきり庇って「可哀想ね」とか言って慰めるのかと思ったけど、は自分の後ろに隠れているコータも叱りつけた。 いつも自分に甘くて優しい姉の言葉にコータはきょとんとして彼女を見上げていた。 意外だな、と宮田はその様子を見守った。 の後ろに隠れるコータを少年たちは甘えん坊だといってまたからかう。 どこかで聞きつけたのかコータを苛めていた小学生の親らしきものが出てきた。 「何ですか、あなたは!子供の喧嘩に!!」 「子供の喧嘩!?母親しかいないって言いながらランドセルを投げているその現場を見て口出しするな?あなただったらそれが出来るんですか?こうやって口を出してきているのに。第一、私もまだ子供です。子供の喧嘩に出てきた大人はあなただけです!」 ああ、確かに。一理あるな。 何となく感心してしまった。 「全く、これだから母親しか居ない家は」 そう言った彼女には 「ああ、なるほど。親の教育方針でしたか。これは失礼。でも、両親が揃っていることの何処が偉いのか子供の私にも分かるように説明していただけますか?そうやって両親が揃っていることに何の優越があるんですか?」 と返す。 「まあ!ナマイキ!!学校に言ってきつくお灸を据えてもらいましょう。何処の学校かしら?」 そうやって脅す母親に彼女は胸を張って自分の通う高校を口にした。 「では、こちらも小学校の方にいじめがあるということを報告させていただきますね」 がそう言うと少年が「え!?」と怯えた声を上げる。 「な!図々しいわ。この子がいじめなんて!!冤罪よ」 「そうですか?では、冤罪を証明してください。嘘を吐いたら、警察に捕まって裁判で裁かれるってことをお子さんに教えていますか?牢屋に入れられるってのをその聡明そうなお子さんにご説明されていますか?」 が言うと子供が泣き始める。泣きながら少年は自分がしたことを口にする。 母親は羞恥で顔が赤くなった。 「まあ、ウチの学校に文句を言いたかったらどうぞ。私は事実を口にするだけですから。子供の喧嘩に口出しはこれ以降しませんよ。勿論、1対1であるなら、という条件をつけますけどね?」 ニコリと微笑むにわなわなと震えて母親は子供の腕を引いて去っていった。 「さん...」 感心したという音を孕んだ声で名を呼ぶ。普段のどこか抜けてとろい彼女とは別人のように思えた。 「ふへー...明日呼び出しだね」 そう言っては笑う。ああ、いつもの彼女だ。 「お姉ちゃん...」 コータがのスカートの裾を掴んだ。 「コータ。間違ったことを言われっぱなしに終わらせないの!ママしか居ないって違うでしょ?たとえそうだとしても、だから何?胸を張りなさい。あなたは何ひとつ悪いことをしていないのだから」 はそう言いながらコータ顔についた砂を払う。 「ほら、ランドセル。随分汚れちゃったけど、拾わないと。お父さんが買ってくれたものでしょ?」 が促すとゴシッと目にたまった涙を拭いて投げ捨てられているランドセルに向かっていった。 「俺も、父親しか居ないよ」 突然の宮田の告白には驚いて彼を見た。 「そうなんだ?」 「ああ。だから、コータの気持ちは少しだけ分かる。それに、俺にはさんみたいに胸を張れって言ってくれる人は居なかった」 「けど、今はご立派に育ったじゃない。親はなくとも子は育つって言うもんね」 ははっと笑ってはそう言った。 コータの場合は、姉という大きな存在があるから立派に育ちそうだ。 その分、姉離れは大変そうだけど... 数年後、彼がどうやって姉離れをするのかとても気になるなと何となく思って噴出した。 全く想像ができなかった。 翌日、は当初の予想通り担任に呼び出されたがどうやら事情を説明すると理解を得られたらしく親の呼び出しは免れたらしい。 ただ、「小学生の喧嘩に意気込んで顔を突っ込むな」と注意されたので「小学生と高校生の口げんかに意気込んで顔を突っ込んだ推定年齢40代前半はどうなんですか?」と返すとそれに関してだけ「屁理屈を捏ねるな」と叱られた。 |
桜風
08.10.25
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