| その日はジムメイトの試合で、その観戦のために後楽園ホールへと向かう。 目の前を横切って少女が横断歩道を渡ろうとした。つくづく彼女とは縁があるようだ。 しかし、そっちは赤だ。 宮田は慌てて彼女の腕を掴んだ。 キキーッと急ブレーキをかけた車の運転手が罵倒を口にして去っていく。 「何やってるんだよ、さん。赤だったぜ?」 今は信号が変わって青だ。 「宮田君!?」 自分の腕を掴んだ人物を今やっと確認して彼女は驚く。 「どうしたんだよ、血相を変えて」 今の時間はもう弟が帰宅しているのではなかろうか。学童保育は5時までとか何とか言っていたような... しかし、以前はそれよりも前にコータを見かけたなと思い出す。 「コータ見なかった?」 縋るようにが問う。 「え、コータ?見てない..けど」 「あの子、今日は児童保育を早めに切り上げてって言い方はアレだけど...早めに帰ったんだって」 「へえ?そんなこと出来るんだ」 「ううん。親の一筆がないと出来ないんだけど、コータ...」 心配そうに周囲を見渡す。 闇雲に探しているようだ。 そういえば、と宮田は思い出した。 コータはもうすっかり宮田に懐いてしまい、彼を見かけると駆け寄ってくる。そして、小学校1年生にして姉よりも足が速いかもしれないという感想を宮田に抱かせている。 そのときも宮田を見つけて「宮田のお兄ちゃん!」と駆けてきた。 ロードの途中でそのときは鷹村や木村も一緒だった。 「ん?どうしたんだよ、宮田。この子」 「卵のねーちゃんの弟だそうだ」 「熊さん!」 コータは鷹村を指差して感動したようにそう叫んだ。 姉弟ってこんなに似るんだな、と変なところで感心してしまう。 「で、コータ。どうしたんだよ」 「ボクね、考えたんだ」 そう言って鷹村たちを見て口を噤む。 それに気づいた木村が「俺たちは先行くぞー」と声をかけて鷹村を引っ張って走り出した。鷹村はコータの言葉に続きが気になっていたらしく「俺様はあの小動物の話を聞く!何だか面白そうだ!!」と主張していたが、木村と青木に宥められながら遠ざかっていった。 「で?」と宮田が促すと 「うん。パパとママがまた一緒に住むようになったらお姉ちゃんも喜ぶと思うんだ」 「...まあ、そうかもな」 「でしょ!」とコータは得意そうに笑う。 「だから、今度ボクはパパに会いに行こうと思うんだ。ママとまた結婚してくださいって言いに。そしたら、お姉ちゃんも大変じゃなくなるし。パパの家、ボクちゃんと覚えているから行けるよ」 「さん..姉ちゃんに相談したのか?」 聞いてみると 「ううん、ナイショだよ。お姉ちゃんをビックリさせるんだから」 「姉ちゃんに相談してからの方がいいと思うけどな、俺は」 宮田がそうアドバイスをするが、コータはつんとそっぽを向いて賛成しなかった。 宮田はその出来事をに話す。 「コータ、そんな事を言ってたの?!」 「結局、さんに相談はしなかったみたいだな」 呆れたように宮田は言う。 「家に、行けるとか言ったの?」 「ああ、電車にも乗れるって...」 「お父さん、前の家から引っ越してるのに!!」 そう言っては駅に向かって駆け出そうとして「お財布!」と叫んだ。 「何?」 「お財布、持って来てない」 パタパタと自分の体を触りながら言う。どのポケットにも何も入っていない。 「俺が先に駅に行ってコータ探しておくから、さんは家に帰って財布を取って来いよ」 「え、でも。悪いよ」 「いいから」と言って宮田は駆けた。 もしかしたら今日は試合を見に行けないかも、と少し未練に思いながらもコータを探すことを選んだ。 彼はどうやら自分にもの凄く懐いて、そして、自分にとっても弟のように思えてきた人物だ。 昔から自分よりも年上の人に囲まれていたから年下の少年との交流はなかったし、そういうのは苦手だった。 だが、コータは一生懸命背伸びをして大人になろうとしているように思える。昔の自分のように。 「ったく...!」 小さく毒づいて宮田は駅へと駆けていった。 |
桜風
08.
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