『好き』には色々あると思う。

俺はそれを表現するのが苦手で怖くて。

身を引いたとかそんなつもりはこれっぽっちもない。

ただ、彼女には俺じゃない。そう思っただけ。

彼女のあの顔を見たとき、飲み込んだ言葉が再び出てきそうだった。

それが怖くて足早に去った。もう二度と逢うことができない彼女を振り向かないように...

雨が俺の『好き』を流し去ってくれればいいと思った。







好き






彼女と出かけた翌日。

学校が休みだからいつもより早くジムへ行く。

ジムで練習している間、敵意を持った視線を感じていた。それが誰のものかは簡単に分かる。

木村さん。

たぶん、昨日のことを知ってるんだろう。

でも、俺は木村さんに睨まれる筋合いもなければ、木村さんも俺に怒りをぶつける権利なんてないと思う。


練習が終わってロッカールームで着替え終わると木村さんもやってきた。

「お疲れ様です。」

いつもは愛想よく挨拶する木村さんだけど、今日は俺に一瞥くれた後そのまま無言だった。

「何ですか。」

俺が言うと、

「別に。...心当たりくらいあるんじゃねぇのかよ。」

怒りを含んだ声で答える。

そんなに気の長くない俺も木村さんの態度にムカつき、

「ありませんよ、心当たりなんて。」

そう答えた。

そしたら突然

「ふざけるなよ!!」

胸倉を掴まれる。

「お前はを傷つけたじゃねえか!お前はあいつの気持ちを踏みにじった!泣かせた!!違うか?!...今のあいつの世界には、色が無いんだとよ。」

そう言った木村さんは悔しそうに顔を歪めていた。

俺は胸倉を掴んでいる木村さんの手を払って、溜息をひとつ吐く。

「例え、そうだとしても木村さんが怒る権利なんて無いと思いますけどね。それに、俺がさんの気持ちに応える義務もなかった。違いますか?...何もしないで初めから諦めていた木村さんにだけは、とやかく言われたくありませんよ。」

そう吐き捨てて俺はロッカールームを出た。

俺が出て行ったあと、ロッカールームから何か大きな音が聞こえた。

...俺だって何かに当たりたいよ。


『お前はを傷つけたじゃねえか!お前はあいつの気持ちを踏みにじった!!』

帰りながら木村さんのあの言葉が頭に響く。

そう、俺は彼女を傷つけた。

俺だって彼女の気持ちに気付いてた。でも、応えられないと思っていた、ずっと前から。

彼女の隣に立つのは俺じゃなくて...。

たぶん彼女にとってそれは近すぎて見えていないだけだと思う。そして、既に隣に立っているあの人も、気付いていない。



いつだったか、彼女が

『世界にはたくさんの色が溢れて輝いてるんだよ。』

そんなことを言っていた。

言われて、なるほどと思った。

彼女といると世界にたくさんの色が眩しいくらいに光っていた。

その世界は温かくて、心地よくて。

結果的に彼女を深く傷つけるということが分かっていても、それでももう少し一緒にいたかった。

そして俺のその甘えが彼女を泣かせた。



どうしようもなく、ガキで臆病な俺に笑ってしまう。

今はただ、あの人に願う。

再び彼女の世界を彩ってくれるように、と。




彼なりに考えての行動でした。
しかし、宮田が勝負から逃げるということに違和感がある人、多いんだろうなぁ...
しかもこれじゃあ、まるでヘタレですしね(苦笑)


桜風
04.5.28


ブラウザバックでお戻りください