君の背中 1





 ロッカールームのドアに手をかけて宮田はため息を吐いた。

中の声が丸聞こえなのだ。

声の主も知っている。結構高い頻度でシフトが同じになるだ。確か、同じ年とか言っていた。

向こうは大学生。こちらは..一見フリーターかもしれない。

何だか釈然としないが、仕方ないとも思う。


「おはようございます」と言いながらドアを開ける。

第三者が此処にいるんだぞ、という主張をしてみた。

しかし、彼女は気づいていないらしく友人らしき人物との通話を続けていた。

確かに、まだ仕事が始まっていない。所謂彼女の自由時間だ。

だが、場所を考えてほしいと思った。ここは、彼女のプライベート空間ではない。

電話は家だけで、というつもりはない。

ただ、こんな狭い空間で勝手に自分の空間を作らないでもらいたいと言いたいのだ。

宮田は自分に支給されているロッカーから制服を取り出して羽織った。

そろそろ時間だ。

「ごめん、時間。じゃあ、またね」

そう言って彼女も電話を切った。

そして、ふと振り返って「あ、宮田君」と驚いたように声を上げた。

「声かけてよー。うるさかった、ごめんねー」

軽く彼女はそう言って制服を羽織る。

「声は掛けたけど」

「あ、ほんと?気づかなかったよ。ごめんね」

そう言って彼女はロッカールームを出て行った。

「そのようで」

ため息交じりに宮田はそう言って彼女に続いてロッカールームを出た。


「明るいし、気さくだし。よく気が付くからね。凄くいい子だよ」

このコンビニでのバイトの先輩後輩の関係で言えば、宮田は先輩にあたるが、彼女と会ったのはここ最近の事だ。

彼女が此処でのバイトを始めたのは高校3年生の1月。大学が推薦で決まり、3学期が暇だったからバイトを始めたらしい。

そのころの宮田は、退院したてて、そして卒業直後からの海外での活動を視野に入れてその準備をしていたため、バイトは入れていなかった。

店長は宮田の事情をよく知る者で、応援もしてくれている。

だから、彼が海外での経験を重ねるために日本を出ていくのでバイトを辞めたいと申し出た時には応援の言葉をくれ、そして「帰ってきたとき、また顔を見せてくれよ」と言ってくれた。

そして、1年弱の海外での活動を終えて日本に帰ってきたときにその言葉に甘えて顔を出してみるとすぐにバイトの話になった。

当然、まだどこにも決まっていなかったため、「またおいで」と言われてここで働くことになった。

此処での宮田のバイト歴が長いということを知らなかった彼女は、宮田をほかの新人と同じだと思っていろいろと教えてくれた。多少、レジが変わっていたので、それは助かったが、正直彼女に思ったのは「疲れないかな」だった。

何かと周りに目を向けているのだ。

先ほどのようなことはあるが、それはどちらに目を向けているかということの違いなのだろうと宮田は思っている。

電話の向こうなのか、こちら側なのか。その違いだ。

(疲れるなら付き合わなきゃいいのに)

人付き合いが苦手な宮田はそもそも他人に無理に合わせようとしない。

むしろ、合わせる気があまりないから人付き合いが苦手というか、あまり人付き合いはよくないだろう。

宮田にとっても、彼女は店長の言うとおりの評価だった。

ただ、気になるのがやたら声が大きい。接客業としては、悪くないかもしれないが、ちょっとうるさいと思うときがある。

むしろ居酒屋向きのような気がする。

ドアが開いた音がした。

「いらっしゃいませー!」

隣でこの声量は正直キツイ。

「いらっしゃいませ」

静かに言う宮田はそっと彼女を覗き見た。

彼女はどこか面白くなさそうな印象を受ける。

声も、表情もそんなことないのに何故かそういう印象を受けるのだ。

「何?」

宮田の視線に気づいてが首を傾げる。

「いや、何でも」

「見とれてもいいけど、今は仕事中でしょ」

彼女は笑いながらそう言った。









桜風
14.5.1


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