君の背中 2





 愛想はそんなによくないけど、意外と周りを見ていると思う。

の、隣に立つバイト仲間の宮田一郎の評価は高い方だった。

元々このコンビニでのバイトは長い方らしい。

ただ、家庭の事情で少しの間海外にいたため、かち合ったことがなかったとか。


高校を卒業する年、は夢を諦めた。

学業はそこそこ優秀な成績を修めていたため、推薦の椅子をもらい、そこに座った。

楽な方に逃げた。

夢については、誰にも話したことがない。

非現実的で、笑われると思ったから。実際、そこにたどり着ける人数はかなり少なく、さらにそれで生計を立てるとなればこれまたもっと人数が絞られる。

そこに自分が立てる自信がなくて、逃げた。

今の状況は嫌いではない。ただ、ぬるい湯に浸かっているという感覚は拭えず、時々すごく焦る。

楽な方に逃げた結果がこれだ、と自嘲することはある。

友人と話をしていて、楽しいが、どこか空虚感を感じる。

つならまい、という感情を表に出さないように気を遣い、その結果疲れる。


「宮田君って」

バイトが終わってロッカールームで制服をしまいながら同じシフトの彼に声をかけた。

「何?」

「何でそんな怖い顔してるの?」

素直に聞いてみた。

怖い顔をしている彼だが、その表情からは『世の中つまらない』という感じはしない。

でも、いつも怖い顔をしている。愛想がない。

「地顔だよ」

ムスッと返す宮田に彼女は愉快そうに眉を上げた。

「なに」

不機嫌に宮田が問う。彼女のその表情は癇に障る。

「ううん。楽しいなって」

「人の表情見てその感想って失礼だと思うんだけど」

そう言って宮田はロッカールームのドアを開けた。

「お先」と挨拶をして出ていく。

「お疲れ様でしたー!」

声を張って言う。

人と話をするのは好きだ。昔から、自分と違う感性に触れて刺激を受けることを習慣にしていた。

たまに、あまりに感性が合わずに不愉快になることはあったが、それはそれでいい経験だと思っている。

ロッカーにしまっていた携帯を確認すると友人とカテゴライズしている人物たちからメールや電話が入っていた。

一度息を吐く。気合を入れて「よしっ!」と呟き早く連絡のあった順から連絡を返していった。


二十歳を超えてからやりたかったこと。

飲酒と喫煙。

飲酒は、正直二十歳前から始めてしまった。

大きな声では言えないが、周りがやってるから、と軽い気持ちで。

今は堂々と飲酒宣言できる。

喫煙はさすがに二十歳を超えてからにした。

一度始めると辞めづらいと聞いていたが、確かにそうかもと思う。

とはいえ、喫煙者に厳しい世の中なので、頻繁にそれを口にすることは多くない。

てくてくとタバコを咥えながら散歩をして、途中、河原で座り込む。

風が気持ちよくて、そのまま紫煙をくゆらせていた。

川向こうの土手を見たことのある人物が走っていた。

「あんれ」

咥え煙草のまま呟く。

バイト仲間の不愛想君だ。

「速いなぁ...」

視界の端に登場して退場していくまでの時間が短い。

距離があるから視野は広い方だと思うが、それでこの短時間で消えていくのだ。

「何してる人なんだろう...」

学校に行っているという話は聞いたことがない。

フリーターかなと思っていた。今のご時世少なくない。

でも、彼の性格だとそう言うのではない気がした。

「うん、面白そう」

呟いて立ち上がる。

バッグに仕舞っていた携帯灰皿にまだ半分以上残っているタバコを押し込んだ。

「あとをつけちゃおう」

体力には自信がある。

自分の視界から消えたバイト仲間を追跡すべく久々の運動をすることにした。


「えー、どこだぁ...」

途中、一度だけ背中を見つけたのに、すぐに見失った。

公園を突っ切ったような気がしてそこに入ったはいいが、出口がいくつかある。

ランニングするならそのまままっすぐ突っ切るような気もするが、態々公園に入って行ったとなると違うのかもしれない。

「うーん」

確実に体力が落ちている。

日ごろから一応基礎体力が落ちないように心掛けていたが、甘かったらしい。

若かりし頃と今は違うという現実にため息を吐いた。

「やっぱダメか」

諦めることには慣れてしまった。それに気づいたはきゅっと唇を噛みしめた。









桜風
14.5.8


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