君の背中 3





 「何だよ」

最近、の視線が気になっていた。

シフトが重なっていないとき、入れ替わりの時が多いのだが、彼女は自分をじっと見ている。

何かあるのかと聞いて「別に」と言ってじっと見る。

「別に」

今回もそう答えた。

宮田は深くため息を吐いた。

「じろじろ見てるじゃないか」

「こそこその間違いじゃなくて?」

彼女が平然とそう返した。

「じゃあ、それでいいけど。何。用事があるならハッキリと言ってくれよ」

宮田が言う。

「用事はないけど、観察してる」

「あまり気持ちのいい視線じゃないんだけど」

憮然と宮田が言うと彼女は

「気持ちのいい視線ってどんなの?」

と妙なところに興味を持った。

宮田はため息を吐く。

店内を見渡すと客が少なく、レジを離れた。バックヤードに行って品出しの準備を始める。

この時間は元々客が少ない。

だからレジが一人でも大丈夫だろうと踏んだのだ。

彼女は彼女でそんな宮田の行動に特に異を唱えることなく店内の整頓の方を始めた。

商品が取り出しやすいように、手前に持って来たり、少し不揃いの並びとなった商品を整えたり。

「いらっしゃいませー」

入口が鳴らなくても彼女の声が聞こえて客が店内に入ってくるのがわかる。

この点については便利だと宮田は思っていた。


「なあ、さん」

レジの方が落ち着いているのを確認して宮田が声をかける。

「なに?」

「これ、あんたの趣味だろ」

そう言って新商品の入っている箱をレジ台の上に置いた。

「絶対売れる」

胸を張って彼女が言う。

実際、彼女が発注した新商品は、大抵いい線行くのだ。

将来はそういう、新商品開発関係の仕事に就いたら重宝されるのではないかと勝手に彼女の将来を思い浮かべたりもした。

「どこに並べる?」

「やらせて」

そう言っては宮田が持ってきた箱を手にレジを離れた。

値札は店長が作ってくれていたらしく、箱の上にあった。

彼女は楽しそうに陳列する。


そう言えば、と宮田は思い出した。

最近彼女から煙草のにおいがしない。

煙草を吸う女性はあまり好きではない。というか、煙草自体、縁遠い存在となりたいものである。

普段からそんなに煙草の臭いをさせているわけではないが、たまに微かに香るときがあった。

友人に喫煙者がいるのかな、と思っていたがやたら煙草の銘柄に詳しかったため彼女に聞いてみたら「嗜んでます」と言われたのだ。

「一応、匂いの強くないのにしてるんだけどね」と言いながら彼女は自分の服の袖を匂う。

「匂う?」

「時々、微かに。自分が吸わないし、そういう人が近くにいないから特に敏感なんだろうとは思うけど」

と宮田が返すと「ごめん」と彼女は心底反省したように謝罪した。

別に目の前で吸われていないだからそこまで気にはしていなかった宮田は余計なことを言ったかもしれないな、と反省したものだ。

さんって」

「んー?」

「煙草やめたのか?」

「あれ?なんで??やっぱ今まで匂ってた?」

わたわたと慌てている彼女に「だから、時々微かにって言ったじゃないか」と以前と同じ言葉を彼女に向ける。

「あー、ごめんねぇ」と彼女も以前と同じ言葉を口にした。

「やめたのか?」

話を戻してみた。

「ああ、うん。まあ...」

歯切れ悪く彼女が言う。

「なかなかやめられないって聞いたことあるけど」

「まあ、喫煙者にやさしくないこのご時世、しょっちゅう吸えているわけじゃないから。比較的楽には辞めれたかな」

苦笑いを浮かべて彼女が言う。

「へー。凄いじゃないか」

素直にそう思った。

「いや、宮田君のおかげですよ」

彼女は笑ってそう言う。

「俺?」

「うん」

「何かしたっけ...」

呟きながら考えるが、思い出せない。

に視線を向けると彼女は自分の人差し指を唇に当てて「ないしょ」と笑う。

「俺のおかげなのに?」

「うん。宮田君のおかげなのに」

そう言って笑う彼女は以前よりも少し楽しそうだった。









桜風
14.5.15


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