| ここ最近、朝早く起きて走るようにしている。 夕方からはバイトだし、夜も中々一人で走る気になれない。 何より、あまり人に見られたくない気がする。 何かに一生懸命になっている自分は滑稽だと思っている。 諦めたくせに、と。未練がましい自分は格好悪い。 しかし、朝早いということは昼間眠くなるということで。 大学の授業中に居眠りする回数が増えてきた気がした。 とはいえ、成績が落ちつほどではないため気にしないことにしている。 「」 ぼうっと窓の外を眺めていると友人に声をかけられた。 「なーにー?」 そう返すとずいと目の前に紙切れを差し出された。 「なに、これ」 手に取ってみる。 (欲しい...!) 素直にそう思ったが、そんな様子はおくびにも出さずに彼女は友人の答えを待った。 「あのさ、この日暇?友達がね、どうしても買ってくれって言うから仕方なく買ったんだけど。あたし興味なくてさ。半額でいいから買ってくんない?ひとりで観劇って痛いって思って行きたくないんだわ、あたし」 (半額?!てか、何が痛いの??!!) 「いいよ。特に用事もないし」 「いいの?ごめんねー」 そう言った友人にチケットの半額を渡してそそくさとそれを財布にしまう。 家にかえってチケットを改めて確認すると、かなりの良席だった。 おそらく、友人に譲った人は泣く泣くだったのだろう。 そして、友人がその価値を分かっていないことに心底感謝した。 半額でも結構な額となるそれは、つまり、そういう価値のものなのだ。 しかし、は問題を一つ抱えている。 暇だと言ったが、その日はバイトが入っている。 「どうしよう...」 誰か変わってくれる人... 急病を装ってもいいが、人に迷惑をかけるのは拙いと思う。それくらいの良識はある。 ふと浮かんだ顔がある。 「今日、いるかな...」 呟き、いてもたってもいられずにはバイト先に足を運んだ。 客として店内に足を踏み入れるのは初めてで、なんだか落ち着かない。 「いらっしゃいませ」と比較的聞きなれた声が耳に入る。 (何か変な気分...) 笑いを堪えてレジを見ると向こうは眉間にしわを寄せている。 店内を見渡すと客はいないようだ。 「ね、宮田君」 「何してんだよ。今日は、バイト入ってないだろ」 「うん。あのね、お願いがあって来たの」 「お願い?」 宮田が眉間にさらに深くしわを寄せる。 用件を聞こうとしたら客が入ってきた。 「いらっしゃいませ」と宮田は新しく入ってきた客にそう言い、「あとちょっとだし、ロッカーで待ってろよ」とに言う。 「そうする」と言ってレジ前に置いてあるガムを彼女は宮田に差し出した。 何も買わないのにレジでコソコソするのはどうかと思ったのだ。 眠気覚ましのそれは明日の授業中に大活躍するに違いないと思い、小銭を払って店を出た。 接客される側になって気づいたけど、宮田は思ったほど不愛想ではない。 暫くして宮田がロッカールームにやってきた。 次のシフトのバイトが慌てて店内に向かった。 「それで。何?」 「宮田君、1回シフト代わってくれない?」 「は?」 パシンと彼女は手を合わせて宮田を拝む。 「どうして」 理由くらいは聞くことにした。 「あのね、どうしても行きたいところがあるの」 「行きたいところ?別の日に行けばいいじゃないか」 面倒くさそうに宮田が言う。 「別の日じゃだめなの!」 鬼気迫った様子でが言う。 「なんで」 「あのね、舞台のチケットが手に入ってね。今日、急きょ、突然。絶対に行きたい演目なの」 の迫力に押され、宮田は思わずのけ反った。 リングの上だとこんなことないのに、と思いながら「いつ」と問う。 「いいの?!」 「いつなのか、による」 の言った日付はできればバイトを入れたくなかったが、そんな縋るような目で見られれば「仕方ないな」と言わざるを得ない。 「ほんと!」 「貸し1だからな」 「うん!」 嬉しそうに笑う彼女に宮田は眉を上げた。 これまでで一番素直な彼女の表情だと思った。 「なに?私、そんな美人?」 「やめよかなー」 「えー!ちょっと!宮田君。自分の言動に責任を持って!!責任を!!」 腕をつかんでそう言う彼女が必至で宮田は思わず吹き出す。 「分かったから」 そう言って了承を口にした。 「宮田君って結構筋肉質ねぇ」 掴んだ腕を揉みながらしみじみと呟くに 「痴女行為はやめてくれないか」 と宮田が冷やかに言った。 「ち、痴女って!ぴちぴちの女子大生が触ってるんだから喜ぶべきよ」 「残念ながら俺はそんな変態じゃないんでね」 宮田はそう言っての手を振りほどいて「じゃあ、お先」と言ってロッカールームを出て行った。 「やったーーーー!!」 噛み殺した声ではその場でガッツポーズをする。 取り敢えず、今度宮田に何かお礼をしよう。何を御礼にしていいのかこれからゆっくりリサーチしていくことにした。 |
桜風
14.5.22
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