| バイトからの帰り、近道だからと公園を横切ろうと足を向けた。 にお願いされて交代したシフトのバイトだった。 店長には事前にから話があったらしく、「仲が良いんだねー」と微笑ましいと言わんばかりの表情で言われた。 否定するほどの事でもないので「どうでしょう」と肯定もしない返事をしておいた。 公園に入ると何か声が聞こえてきた。 「何だ?」 喧嘩だろうか... そう思って宮田は足を向けた。 というか、通り道なのでそちらに行くしかない。 声音からいって女性だと思うし、と仕方なく巻き込まれることを覚悟してそちらに向かう。 「わたくしはそのような覚悟でこちらにいるのではございません!かの者はわたくしがこの手で...!!」 (物騒だな...) 正体見たり枯れ尾花、という言葉が頭に浮かんだ。 騒いでいるのはだった。 さらに言えば、喧嘩ではない。 宮田はその様子を見守った。 どうやら芝居を再現しているようで、彼自身、思わず見とれてしまっていたのが正直な感想なのだ。 ふいに彼女の雰囲気が変わった。いつものバイト仲間の同じ年の女の子になった。 「女一人でこんな時間にこんなところにいるのは危ないぜ」 声をかけると彼女はびくりと震えた。 「え、なんでいるの?」 「バイトの帰り道」 少し嫌味っぽく言う。 「あー、この節は...」 「さっきの、何?」 宮田が問うと彼女は頭を抱えて蹲る。 「な、何の話?」 「心当たりがありそうな反応しておいてそれはどうかと思うぜ」 宮田の言葉に彼女は「わーーー!!」と嘆く。 「いつから」 「あー、えと。『わたくしはそのような覚悟で』うんたらかんたら辺り」 宮田の言葉に彼女はさらに唸る。 しかし、暫くして気を取り直したように立ち上がった。 「今日ね、お芝居を見に行ったの」 「演劇?」 「そう」 彼女が頷く。 「それで、さっき見たのを演ってたんだ?」 そう指摘されて彼女は気まずそうに頷いた。 「うまいもんだと思ったけどな」 取り敢えず、家まで送るという宮田の申し出をが断り、折衷案として大通りまで送るという案でお互い妥協した。 宮田としても、あまり治安がいい方ではないこの近所の事を知っていて一人で帰して何かあったら目覚めが悪い。 一方は、宮田の手間をこれ以上増やしたくないというお互いの意見の対立があったのだ。 「何が?」 「さっきの一人芝居」 「あれ、記憶から葬り去ってくれない?」 「ダメだな。俺、演劇って、間近で見たことないし」 宮田が言う。 「学校で、演劇部とかなかったの?」 「正直興味が無かったから、学校行事」 つまり、演劇部があったとしても、その発表の場である文化祭にさほど興味が無かったので見に行くことをしなかったというわけだ。 「そうなんだ」 「さんは、演劇してたのか?」 「まあ、うん...中学高校とね」 「6年も続けたのか」 感心して宮田が呟く。 「お恥ずかしながら、そちらに進みたいとも思ってたしね」 肩を竦めて彼女が言う。 「そちらってことは役者って事か?」 「うん、まあ...」 「体壊したとか?」 夢をあきらめたと彼女が言う。きっと仕方のない何かがあったのだろうと宮田は思った。 しかし、彼女は首を横に振る。 「だって、皆が皆なれるものじゃないし」 用意していた言い訳というのがわかるその言葉に、宮田は少し苛立った。 なぜだろうか。 夢をあきらめること自体、見渡せばいくらでも目に入ることだ。 特に、『夢』と掲げるからにはそれなりに困難なもので。だから、諦める人間だって少なくない。 いわば、『よくある光景』なのだ。 そして、そのよくある光景が目の前にある。それだけだ。 しかし、どうしても宮田は彼女のその言葉が引っかかって「そうか」と言えなかった。 「諦めきれてないのにか?」 宮田の問いには一瞬顔を顰めた。 「諦めたって言ってるじゃない。だから、今の大学に進んだし、こうしてバイトに明け暮れる面白おかしい生活に甘んじてるんでしょ」 (やぱり...) 宮田は納得した。 彼女は諦めきれていない。 今の生活に『甘んじている』と表現したのがその証拠だ。 未練を持つことだって悪いことではないが、彼女のそれは見ていて見苦しく感じてしまった。 大通りが見え、隣を歩くがあからさまにほっとした空気を醸した。 「夢を追うことも、挫折することもかっこ悪いことだとは思わないけど、言い訳を用意してそういうふりをするのはかっこ悪いと思うぜ」 宮田はそう言って背を向ける。 「気を付けて」 先ほど通って来た道を戻る。 背後では駆けだした音が聞こえた気がした。 |
桜風
14.5.29
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