君の背中 7





 久々にバイトに出ると、ちょうどと入口でかちあった。

今日はシフトが一緒らしい。

「お疲れ様」

が言う。

彼女のいうお疲れというのは、先日の試合のことかもしれない。

全然打たれていないので、こうして早々に日常生活を送り始めている。

「ああ。どうだった?」

「なんか、女の子多いんだね。こっち見てーーーーって。私、前にアイドルのコンサート言ったけど、彼らと同じこと言われてたよ、宮田君」

彼女の言葉に宮田はげんなりとした表情を浮かべる。

「まあ、いろんな層のファンがいるのは業界的にはいいことだとは思うんだけどな」

「私もよっぽど言おうかと思ったもん」

「見てただろう」

からかう宮田に

「だから、言えなかった」

は肩を竦める。

「でも、チャンピオンって。頂点じゃん」

ロッカーを開けながらが言う。

「まだ頂点じゃないさ」

「チャンピオンの上って何?」

店に出ながらが問う。

「俺のはOPBFのチャンプ。まだ先はあるんだ」

「オージービーフ?美味しそうだね」

さん、耳と頭悪いのか?」

「今ので、どうして頭も悪い仲間に入るのよ」

わざと聞き間違えたのに、酷い言われようだと彼女が憤慨する。

その様子に宮田は口角を上げた。

「悪役面」

の指摘に宮田はふんと鼻で笑う。


バイト中は基本的仕事の話しかしなかった。

今日に限って忙しかった。住宅街で突発的になぜ忙しくなるのか、と首を傾げる。

怒涛のラッシュをさばき終わったところで本日の業務が終了となり、次のシフトの人と交代する。

「宮田君は、ボクシング楽しい?」

「さあ、どうだろう」

肩を竦めていう。楽しいと単純に言えるものではない。

「苦しい?」

「そういうときもあるかな」

「なんでやってるの?」

単純で、彼女が一番答えを知りたい問い。だから誤魔化さないで答える。

「夢があるから」

「夢?」

「夢というよりは、目標だな」

「チャンプなのに?」

が心底不思議そうに言う。先ほどの会話の再来だ。

「さっきも言ったけど、まだ先はあるからな」

「先?」

「世界チャンピオン」

「じゃあ、宮田君は世界チャンピオンになったら納得して終われるの?」

重ねられた問いに宮田は首を横に振る。

「終われないだろうな」

「何で?」

「根拠はないけど、確信はある」

「そうか...」

俯いてが呟く。

「ボクシング選手になるのだって、テストがあるんだぜ」

「テスト?そうなの?ジムに所属したらプロとかそういうのじゃないの??」

「違う。だから、プロになれずに諦める奴もいるし、プロになっても勝てずに辞める奴はいる。もちろん、何もせずに勝手に自分で完結して諦める奴も」

最後は今のと重なる部分で、彼女は視線を逸らした。

「プロって言うなら、試合をしたらお金が入るんじゃないの?なんでバイトしてるの?」

「生活が不安定だしな。それだけで生活はちょっと、って感じで」

「チャンピオンなのに?」

が心底不思議そうに問う。彼女にとって、『チャンピオン』というものはそれほど凄い存在なのだろう。

「今は、まあ。それなりのファイトマネー貰えてるけど、言うほど破格じゃないし。まあ、このバイト、店長もいい人だし続けようって思ってるんだ。俺の試合に合わせて融通利かせてくれているし」

非常に助かっている。



ロードワークから戻ると練習生が何人か固まって話をしていた。

いつもの光景であるが、宮田は足を止めた。

ひとりがどうやら何かのチケットの購入を依頼していたのだ。

「なんだ?」

宮田がその輪に入ってみる。

「宮田さん!」と最初話していた彼らは驚いた様子を見せたが、何の話をしているのか、という宮田の問いには素直に答えた。

劇団に所属している友人からチケットノルマの協力を頼まれたとか。

そこで、ここで協力してくれる人を探しているとか。

「あとどれくらいだ?」

「2枚です」

タイミングが合うだろうか、と少し考え、「俺が買おう」と申し出る。

「え、でも...アマチュアの劇団ですよ」

と慌てて言うが、「構わない」と宮田が言う。

「じゃあ」とロッカールームに置いているから、という彼と共に、宮田はロッカールームに向かった。

「2枚って宮田さんは誰と行くのだろう」とその場の話題に上ったが、きっと父親と行くのだろうと誰かが言いだし、『仲の良い親子だなぁ』と皆が納得してしまったが、宮田親子はそのことを知らない。









桜風
14.6.12


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