君の背中 9





 がバイトに出なくなって宮田は少し責任を感じていた。

焚き付けたのは間違いない。

だが、バイトに来なくなるとはどういうことだろう。

店長に聞いてみると、一応彼女から連絡があったらしいので、無事ではあるようだ。その点は本当に安心した。

あの帰りに何かあったなら本当に、自責の念にとらわれていただろう。


夕方、ロードワークに出ていると背後を誰かが付けてきていることに気づいた。

とはいえ、距離が離れていっているので、着いてきているのではなく、同じコースを走っているだけだろうが、どこか執念らしきものを感じ、振り返った。

さん?!」

豆粒サイズの彼女が視界に入る。

宮田は戻って、そしてまた別の意味で驚く。

「どうしたんだよ、それ」

「親父にもぶたれた事ないのに!って言いたいところだけどね。その親父にぶたれた」

彼女はそう言って笑う。

頬に痣があるのだ。

「親父さんにぶたれたって...」

「学校やめて、劇団に所属する」

彼女が宣言する。

「劇団に所属?」

「うん、この間お芝居見たところ。オーディション受けてきた。合格した。ねえ、宮田君。諦めるのだって本当に大変なことなんだよ。やってみて、もがいて足掻いて、それでダメじゃないと諦められるわけないじゃない。私をその気にさせて、まったくひどい男ね」

恨みがましい言葉を並べているが、彼女はこれまで見た中で一番生き生きとしていた。

「バイト、休んでるのは?」

「父と大喧嘩するのに、色々と綺麗にしておかなきゃいけないことがあったからね。あと、あそこのバイトは辞めるよ」

「え?!」

流石にそれは予想外だった。

「これまでは親の仕送りプラスバイトで生活してたんだけど、親の仕送りが消えました。部屋も安いところに借り直さなきゃだし。そしたら、バイト先も近いところがいいじゃない?もうちょっと時給がいいところとかね」

彼女の言うことは納得できた。

「そうか」

「私がいなくなって寂しくなるだろうけど」

ふふんとが笑いながら言う。

「否定はしないけどな」

と宮田が言うものだから、彼女は固まり「何、何か悪いもの食べちゃった?」と心配し始める。

「うるせぇ」

「あ、いつもの宮田君だ」

そう言って彼女はけらけらと笑う。つきものが落ちたとはこの事か。

「宮田君、ありがとね」

「は?」

突然の感謝の言葉に宮田は変な声が漏れる。

「私が頑張ろうかなって思い始めたのって、宮田君が走ってたからなんだ」

「走ってた?」

「うん。この土手の向こうでね、何もやる気がなくってタバコ吸いながらぼーっとしてたら宮田君が走ってる姿が目に入ったの。

体力と脚力に自信があったから追いかけてみたんだけど、全然追いつけなくて。

それで、ムキになって、まずは煙草をやめて体力作りを一からやり直して。だから、この間のオーディションもブランクの割に結構いけた」

知らないうちに彼女に影響を与えていたらしい事に宮田は今更ながら驚いた。

「何回か、宮田君追いかけて走ったんだけどね。全然追いつけないの。

途中で待ち伏せして宮田君が空豆大の大きさになったら追いかけ始めて、すぐに大豆くらいの大きさで米粒になって、ゴマになって、消えてて。

あー、腹立ったわ」

「走り込みで負けるかよ」

宮田言うと「でも、今日は気づかれちゃった」とは肩を竦める。

「どうしてだろうな」

宮田も肩を竦める。

「今日、追いつけなかったら挨拶できなかったわ。今までありがとう」

「いつか、さんが舞台に立つときは連絡をくれよ。チケット代払って見に行ってやるよ」

「じゃあ、宮田君が世界チャンピオンに挑戦する時には連絡頂戴。チケット代払って見に行くから」

「世界戦なんて簡単に手に入らねぇよ、普通」

「じゃあ、頂戴」

「だったら、その時までにさんは居場所がわかるように、役者として有名になっとかないとな」

宮田の言葉には一瞬怯んだが「望むところよ」と胸を張る。

そして、宮田に向かって手を差し出した。

「宮田君、ありがとう。あなたのあ背中に感謝だわ」

「どーも」

2人は握手をし、そしてそれぞれ背を向ける。

「またね」

「またな」

一言お互い発して足を進めた。

これが今生の別れではないとお互い確信して、それぞれの道を進む。

いつか再会した時、「どーだ!」と言えるように。自分に正直に、まっすぐに。









桜風
14.6.26


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