| 納得できないうちにさよならした子がいた。 さよならをしたといっても、「さよなら」が言えたわけではない。知らないうちに会えなくなったといったのが正しい。 よく笑う、嬉しそうに両親を自慢していた男の子。 当時は従弟で、今は他人。 フルネームは覚えていない。 ただ、覚えているのは「チロちゃん」と呼んでいたことだけだ。 ふと、夢を見た。 内容を詳しく覚えているわけではないが、懐かしさがこみ上げてきた。 とても温かい気持ちになるような、そんな感じだ。 今年大学に上がって晴れてひとり暮らしを始めたは朝早く散歩をするのが日課だった。 いつもコースを変える。 せっかく新しい街に来たのだから色んな景色を見たい。 と、いっても。 随分昔、といっても10年くらい前らしいがこのあたりで遊んでいたらしい。 しかし殆ど記憶にないし、それに10年くらい前だったら町並みも随分変わっているはずだ。 だから、新鮮な気分は味わえる。 どうもこの地区は学校が近いらしく、中学生、高校生といった感じの少年たちもよく土手を走っている。 今日も前方からフードを被って走ってくる少年がいた。 「おはようございます」 はすれ違うスポーツ少年や脱メタボに取り組んでいるウォーキング中のおじさんに挨拶をする。 清清しい挨拶を返してくれる人も居れば、自分を訝しがって声も返さずに無視をする人だっているし、突然知らない女の人に挨拶をされて照れる少年たちは可愛くてからかいたくなる。 下を向いていた少年は顔を上げて「おはようございます」と声を返した。 挨拶を返してくれるスポーツ少年だったらしい。 しかし、は足を止めて振り返る。 彼は足を止めることなくそのまま背中は遠ざかっていくが、なんだか既視感を覚えたのだ。 「10年前..だもんなー...」 は呟き、首を傾げてまた足を進めた。 今朝の出来事が気になってあの土手に向かった。 バイトがあるからあまり時間はない。 たぶん、明日の朝行った方が会えそうな気がするけど、それでも気になって足を向けた。 今朝彼に声を掛けたその場所に着き、周囲を見渡したがやはり世の中そんなに上手くできていなかったらしい。 「だよね」と呟いては踵を返した。 この時間となったら、バイト先にはダッシュで行かなければ遅刻してしまう。 駆け出した瞬間、視界の端に何かが映った。 「居た!」 思わず声に出して駆ける。 今回は川向こうを走っていた。 しかし、相手はスポーツをしている人間だ。これは引き離されるのオチか?! そう思いながら川向こうの彼を目で追いながら駆けていると誰かにぶつかった。 「ごめんなさい!」 「んー?どうした、姉ちゃん」 やばいのにぶつかったか...?! 走っていたから心臓がこうも鳴っているのか、怖いから鳴っているのかが定かではないが、とりあえず、心臓が早鐘だ。 「あ、あの。ごめんなさい。急いでいたもので」 「そんな感じだったな」 そう言って目の前の男は笑った。 「何やってるんですか、鷹村さん。会長に言いますよ」 呆れた声が届く。 「な!?ちょっと待て、宮田。俺様はまだ何もしてない!!」 「『まだ』??」 は思わず聞き返す。 「これからだ。なあ?」 何故か同意を求められた。 いや、頷けない。 というか... 「チロちゃん!?」 は宮田と呼ばれた少年を間近に見てそう言った。 反射みたいなものだ。 「チロ..ちゃん?」 眉間に皺を寄せて少し怖い顔をして彼が言った。 思い切り怪しがられている。 ああ、そうだよな... でも、たぶんきっと間違いない。 10年前までこの街に時々遊びに来ていたのは従弟が住んでいたから。 そして、従弟と会えなくなったのは、その従弟の両親が離婚をしたからだ。 自分は母方の従姉だったからもう会えない。 そう言われて納得できずに1日、母と話をしなかった。 だが、幼い子供だった自分にはそれが限界だった。親を頼らずに生きていけるようなしっかり者ではなかったのだ。 でも、彼は覚えていないようだ。 「ごめんなさい、人違いだったみたいです...」 はそう言って駆けていく。 バイトには確実に遅刻だが、それ以上にちょっとこれは落ち込むなと思いながら。 |
桜風
08.12.6
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