| あの駅で会って以降、再びに会えたのは意外にも自分の試合だった。 彼女はあの時自分の住所を言わなかったし、連絡先も教えてもらえなかった。まあ、時間がなかったのだから仕方ないのだが... あのときに謝れなかった宮田は何とかして謝りたいと思っていたが、連絡先を知らなければ彼女に接触出来ない。 彼女に会えなければ謝れない。 全く進展しない悶々とした日々を送っていた中での再会に驚いた。 しかし、もっと驚いたのは彼女の様子だ。 ホールの中にいるということはチケットを購入しているということだ。 だったら、きっとボクシングに興味があるんだろうなと試合前に、会場に入ってから彼女の姿を目にしてそう思った。 そして、相手がダウンをしてレフェリーがカウントしているそれを耳にしながら彼女が座っていた場所に目を向けると、彼女は耳を塞いで体を折って床に顔を向けている。 つまり、全く試合を見ていないし聞いてもいないようだ。 どういうことだ、と思っているとカウントが終了して試合が終わった。 ゴングが響くと彼女は顔を上げた。 宮田の視線に気づいたようで手を振っている。 宮田は訝しがりながらも小さく会釈をして彼女の存在に気づいていることを示した。 試合が終わると彼女は外にいた。 「先に帰ってるぞ。遅いから送ってあげなさい」 父に言われて「わかった」と無愛想に返してに足を向ける。 「こんばんは」と彼女が言い「こんばんは」と宮田も返す。 「勝った..んだよね?」 確認されてしまった。 「試合、見てなかったの?」 宮田が聞くと半笑いを浮かべては頭を掻いて曖昧に頷く。 「人が殴ったり殴られたりってあまり好きじゃないから」 「じゃあ、何で?」 何故ここに居るのかと聞いた。 「だって、チロちゃんのおうち、何処か覚えてないんだもん。いつも親に車で連れて行ってもらってたから...」 つまり、自分に会いに来たらしい。 「態々チケットを買って?」 は頷く。責められているようで何だか居心地が悪いのか、貌が曇ってきている。 「あ、いや。別に責めてるんじゃなくて..驚いたんだよ」 そう言って弁解した後、先ほど父に言われたので送ると申し出た。 「ああ、いいよ。住んでるところは駅から近いから」 「でも、ほら。何かあったら寝覚め悪いし。ちゃん置いて帰ったって言ったら父さんもうるさいだろうし。意外と治安良くないし」 そういうと少し怯えているので、またしてもしまったなと思った。 徒に怖がらせたくてそう言ったのではない。 「まあ、えーと。だから、送るって。あと、俺も..何処に住んでるのか興味あるって言うか、何かあったとき駆けつけられるように家を知っておいたほうが良いと思うし」 何だかしどろもどろにそう言った。 「じゃあ」とは遠慮がちに頷き、駅に向かった。 「でも、チロちゃん本当に大きくなったね」 電車の中で宮田を見上げてそういう。 「あー、まあ。お陰様で」 宮田はそう返しながらも、どのタイミングで謝ったら良いのだろうと悩んでいた。 本当に今更過ぎる気がする。 でも、謝らないと... 「何か考え事ですか?」 俯いている宮田の目の前にの顔が現れた。 「あ、いや...」 不意打ちを食らい、宮田は焦り、やがて覚悟を決めて頭を下げた。 「ごめん」 「はい?」 はワケが分からないと首を傾げた。 「や、あの..随分前なんだけど。俺、ちゃんの事を覚えてなくて..それで、えーと」 何か良い言葉がないかと探したが見つからずに結局「ごめん」ともう一度重ねて言った。 はきょとんとしたが笑う。 「いいよー。仕方ないよ、最後に会ったのは随分昔だもん」 そう言って背伸びをして宮田の頭を撫でて「む...」と少し不満そうに呟く。 宮田が彼女を見ると「ホントに大きくなっちゃって!」と不満を口にしていた。どうやら、幼い頃も彼女は自分の頭をよく撫でていたようだ。 「今だってあんまり思い出してないんでしょう?」 はそういう。 「まあ、うん...」 素直にそう返すとは笑いながら「やっぱりね」と言う。 「昔はね。チロちゃん、わたしのこと『お姉ちゃん』って呼んでたんだよ?」 父さん...!! ここに居ない父に責任転嫁をする。 父がそう言ったから信じたのに... 「ホントにごめん」 宮田はしゅんとなって謝った。 それに対しては笑う。「いいよ、別に」と。 「とりあえず、存在を思い出してくれただけでも万々歳だから。それに、こんなに大きくなってるのに『お姉ちゃん』って言われてもしっくり来なかったと思うし」 本当に申し訳ないなと思いながら「うん」と宮田は頷いた。 |
桜風
08.12.27
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