| の言ったとおり彼女の借りているマンションは駅から徒歩で5分と掛からなかった。 「あがってく?あがっていこう」 まあ、どちらでも良いけど、と思いながら促されるままにエレベータに乗った。 彼女が鍵を挿してドアを開けた。 「どうぞ?」と促されて「お邪魔します」と足を踏み入れる。 ワンルームのマンションだ。 「あまりこざっぱりもしてないけど、ごみごみもしてないでしょ?」 その通りだな、と宮田は頷いた。 「大学はこの近く?」 は大学生だといっていたので、大学に通うために上京してきたのだ。 「んー、まあ。学校自体は近くないかな?駅が近いから便利といえば便利だけど」 そう応えながらはキッチンに立っている。 「コーヒー、飲める?」 「子供じゃないって」 の言葉に宮田は苦笑してそう応えた。 「そういえばそうだ」とも納得してインスタントコーヒーの粉をカップに入れている。 宮田は「適当に座ってて」と言われたとおり適当に座ってみたが、結構落ち着かないものだ。 自分の部屋とあまりに違うし、少なくとも、家の中のどの部屋とも様子が違う。 カーテンは柔らかいピンク色だし、ベッドの上にはぬいぐるみが置いてある。 小物も可愛らしいものが色々と置いてある。 何だか違う世界に来てしまったようだ。 「はい、どうぞー」 そう言ってコタツの台の上にマグカップを置いた。 そのマグカップだってピンクの可愛らしい花柄だ。 「ああ、ごめん。コタツつけてくれたよかったのに」 そう言いながらはコタツのスイッチをオンにする。 「あ、いや。そんなに寒くなかったから」 そう言いながら宮田は目の前に置いてあるマグカップに手を伸ばした。 「インスタントでゴメンね。あまりコーヒーに拘りがあるわけじゃないから」 の言葉に頷き、コーヒーに口をつけた。 ミルクと砂糖が目の前に用意してあるが、自分には無用だ。そして、のを見てみると、カフェオレになっているのか。少なくともミルクが入っている。 宮田は小さく笑った。 「何?」 「いや、何でもない」 何だかのほうが子供のようだ。 「そういえば、大学って何学部?何で東京に?」 少し気になったので聞いてみた。 の故郷だって大きな街だし、大学も沢山あるはずだ。 「ああ、ちょっと家を出たかったってのもあるし。推薦があったから安易に手を出したと言いますか...」 ばつが悪そうに頭をかきながらが応える。 「でも、ちゃんが勉強したかったことなんだよね?」 「そうだよ。チロちゃんの思ったとおり、地元でも出来る勉強なんだけどね。チロちゃん、高校は?」 「行ってるよ、一応」 それから少し近況についての情報交換を行う。 もう何年も会っていなかったから全てが新鮮だ。 「あ、ねえ。昔の事を覚えてないって言うなら、アルバム見る?ああ、でもチロちゃんちにもアルバムはあるか...」 そう言ったに「見せて」と宮田は頼んだ。 不思議そうに自分を見る彼女に家には写真が殆ど残っていないことを話す。 「そうなんだ」と納得しながらはベッドの下から段ボール箱を取り出した。 「えーと、ね」と呟きながら数冊取り出す。 それを受け取り、最初のページを捲って宮田は驚いた。 「え、これ誰?」 「チロちゃん」 産着に包まれ、静かに寝ている赤ん坊の隣で幼い子供が寝ている。 「俺?!」 自分の赤ん坊時代の写真なんて初めて見た気がする。 それから宮田は静かにアルバムを捲る。 も宮田に並んで写真を見ていた。 ふと、ある写真で手が止まる。 「ああ、お花見ね」とが呟いた。 「これって...」 この風景は記憶に残っている。 「何か、この前の週もチロちゃんは家族でお花見に行ったのに、わたしが遊びに行ったらまたお花見って言い出して。おじさんたち困ってたけど、結局お弁当作ってくれて。わたしもお花見に連れて行ってもらったんだ」 の言葉で少し思い出した。 そして「あのさ」と呟く。 「ん?」とは返した。 「あの人、元気?」 宮田が言った『あの人』が誰かが分かったは少し間をあけて「元気だったよ」と答え、 「ウチってお正月は結構親戚の集まり率高いんだよ。だから、今年も会ったよ」と続ける。 「そっか」と宮田は返してそのまま黙った。 それからまた暫く宮田は黙ったままアルバムを捲っていたが、 「何か、音が鳴ってる...」 と耳に届いた音に気を取られた。 「ん?あ、ああ。ゴメン!」 慌ててが鞄を開けると携帯電話を取り出す。 「出なくてもいいの?」 「メールだから。チロちゃん、携帯は?」 「持ってないよ」と苦笑しながら宮田は返す。 「まあ、高校生だもんね」とが言うと「持ってるやつは持ってるけどね」と宮田も返した。 そして何気なく部屋に置いてあるこれまた可愛らしい時計を目にして驚いた。 「ごめん、長居した」 と宮田は慌てて立ち上がる。 そういわれても時計に目を向けて「ホントだ、もうこんな時間」と驚きの声を上げた。 慌てて玄関に向かう宮田についても玄関に向かう。 「じゃあ、また」と靴を履きながらそういう宮田に、 「今日はありがとうね。あと、おめでとう」とは声を掛ける。 そして、慌てて玄関に置いているメモ帳に数字を書き始める。 「これ、この家の電話。それと、一応携帯」 そう言って宮田にそれを渡す。 受け取った宮田も「もらうよ」と言って玄関のメモ帳に自宅の電話番号とジムの番号を書く。 「どっちかに、俺か父さん居ると思うから。何かあったら電話して」と言ってメモを渡した。 「ありがとう」 玄関のドアを開けて宮田は一度振り返り 「今度、って言ってもまだ先なんだけど。新人王トーナメントが始まるんだ。苦手かもしれないけど、良かったら...」 とボクシングの話をする。 「一応、日程教えて。普段夜はバイトだから行けないかもしれないし。やっぱり苦手だけど、行けたら行きたいってのもあるし」 の言葉に頷いて 「またトーナメントが決まったら電話するよ」 「待ってます」 そう言っては手を上げて軽く振る。 宮田も手を振っての部屋を後にした。 |
桜風
09.1.3
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