| 何となく思い立っての家に電話をかけてみたものの、数日連絡がつかないことに多少の不安を覚えた。 可能性はいくつかある。 ひとつ。書き間違えた。 ひとつ。実は教えたくなかった。 「そんなに気になるんだったら携帯の方に掛けたらいいだろう」 そんなことを悶々と考えていたら、背後から声がして宮田はビクリと肩を震わせた。 「な!?父さん!!??」 「大学生なんだから、春休みとかあるんじゃないか。それに、バイトだってしてるって言ってただろう」 「うるさいなー」と返しながら宮田は自室に戻る。 携帯に掛けるのは何だか少し気が引けていた。 何だかの時間を割くみたいで。 いや、家の電話でも彼女の時間を割くようではあるが、携帯は何処にいても掴まえてしまうから時間を割くというのでは余計に確率が高い。 『もしもし』 そんなことを考えていたのに結局掛けている自分をどうかと思う。 「宮田、です」 『えーと、チロちゃんの方だよね?』 「そうだけど?」と不思議に思いながら宮田は返した。 『声、似てるんだよ』と苦笑しながらが言う。 何だか腑に落ちないが、まあいいやと気を取り直す。 「もしかして、今春休み?」 父の言ったことを半信半疑で聞いてみると 『そうだよ。何か、大学生って春休みが2ヶ月近くあるの。夏休みもそれくらいあったし。凄いよね』 と返された。 何だ、そうか。 『それで、どうかしたの?』 が宮田に用件を尋ねる。 宮田は宮田で別に用事があったわけではなかった。 だから、慌ててグルグルと考えた挙句「花見」と呟く。 『お花見?』 が聞き返すと 「そう、花見」 と言いながら電話の前でコクコクと頷く。 『桜?まだ早いよ?』 笑いながらが言う。 そりゃそうだ。まだ2月の半ばだ。 分かっている、と思いながら 「いや、だから。今度。桜が咲いたら、花見行かないかなって」 と続けた。 『いいよ。それくらいにはまた大学始まるからそっちに戻ってるし』 とはあっさり了承した。 日にちとか前以て決めないとバイトの関係で行けないかもしれないから、とは付け加える。 「分かった。戻ってきたら電話くれるかな」 『いいよ。チロちゃん、春休みまだだよね?』 「そう。高校生の春休みは3月半ばから」 宮田がそう返すと 『まあ、しっかり学びなさい』 と笑いながらが返し、そのまま通話が終わった。 3月に入り天気予報コーナーで桜前線についての情報も併せてアナウンスされ始めた。 朝の天気予報コーナーを毎日眉間に皺を寄せてみている息子に首を傾げながらその様子を見守っていたが、何となく分かってきた。 東京がそろそろ開花だという予報を聞いてカレンダーに目を向けていると 「あと1週間は待ったほうが良いんじゃないか」 と声を掛けられた。 「何を?」 「花見に行くんじゃないのか?」 何故ばれている?! そう思いながら渋々頷いた。 「今週の半ばから少し冷えるみたいだからな。開花が伸びるだろうし、その後もあまり温かくならないだろうから、待ってみたらどうだ?」 理由までつけられて宮田は頷いた。 「それはそうと。ちゃんは帰ってきているのか?」 「3月の最後の週には戻ってくるって」 なるほど。丁度良いんだろうな。 「ていうか。俺、誰と行くとか言ってないんだけど...」 不本意そうに言うと 「お前が他の誰かを誘うなんて思えんからな」 と笑いながら言われて宮田はふてくされた。 その通りだが、本当に見透かされていると面白くない。 その日の晩、から電話が掛かってきた。 電話を取ったのは父で、宮田はバイトのためまだ帰ってきていないという。 「チロちゃん、バイトしているんですか?」 「ああ、そうだよ」と驚いた声で聞くに苦笑しながら応えた。 「どこですか?」 行く気満々の声のに 「私が話したら怒りそうだからね。それは一郎から聞いてくれるかな」 と返した。 「わっかりました!」 聞く気満々の様子の返事に笑いを堪え、が戻ってきたことを伝えておく旨を話して通話を切った。 伝言を聞いたら、息子は何て表情をするだろうか。 想像しただけで何だか楽しくなって小さく笑う。 本当に、変わった。 いや、昔に戻ったというべきか... 彼女の存在が何だか有り難かった。 |
桜風
09.1.10
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