Step by Step 7





食事を済ませて弁当を洗い終わったが「チーロちゃん」と何となく甘えた声を出した。

何だろう、と思って「何?」と返すと

「お部屋は何処だったっけー?」

と言ってきた。

「だめ」

「何で!減るものじゃないでしょう?」

「掃除してないから」

これは嘘。

何もないから掃除しやすい部屋で、軽くなら大体掃除している。

「じゃあ、お姉ちゃんが掃除してあげる!」

「いいよ、それくらい自分で出来るから。ちゃん、ほら。ここに座る」

そう言って自分の座っているソファの隣をポンポンと叩いた。

「けち!」と言いながらもは宮田の叩いたところに腰を下ろした。

「何でダメなの?」

「恥ずかしいから」

これは本当。

今まで父親だってあまり足を踏み入れたことのない部屋なのだから。

「けちー」ともう一度は言うが、それ以上は言わなかった。

話していると良く感じることなのだが、は引き際が良いと言うか、距離の取り方が絶妙で、凄く気が楽だ。

ちゃん、バイトは何しているの?」

「思い出した!」

宮田が聞いたらがそう叫ぶ。

「チロちゃん、何のバイトしてるの?この間電話したときおじさんがチロちゃんバイトに行ってるって...」

自分の質問は流されたのかなー...と思いながら溜息をつく。

「内緒」

「じゃあ、わたしもヒミツ」

「...接客業だよ。一応」

「チロちゃんが?!」

そう反応されるだろうから内緒って言ったのに。

「まあ、かく言うわたしも接客業だけどね。ひとつは」

彼女なら何となくそういうの得意そうだと思う。

「?『ひとつは』ってことは。掛け持ち?」

「カテキョもしてるのよ。結構割がいいんだ」

宮田は眉を上げる。

「家庭教師って..ちゃんが?」

「うん。今、わたしのバイトの話してるんでしょう?」

それもそうだ。

「教えてるの?」

「家庭教師だからね。というか、何だね?わたしが誰かに何かを教えているとそんなに不思議と言うか信じられないのかな??」

半眼になって言うに首を振った。勿論横に。

「いや、大変そうだなって...休みがないんじゃないの?」

「んー、まあ。でも、ちょっと頑張りたいことがあるから」

そういうに首を傾げた。

その頑張りたいものの内容を聞こうと思ったけど、今全部聞いたら会話がなくなってしまいそうでやめた。

「へー、凄いね」

「チロちゃんも勉強教えてあげようか?お部屋に行く?」

「行かない。俺、成績悪くないし」

苦笑しながら宮田は応えた。


そういえば、大学の学部は国際系だと言っていたような...

じゃあ、英語なのかな?それとも、全教科なのかな?

そう思っているとコトリと肩に体重が掛かる。

何だろう、と首をめぐらせて焦った。

ちょっと不意打ちじゃないだろうか。

すやすやとが寝息を立てている。

そういえば、お弁当を食べているときに早起きしたとか言っていた。

さっきまで色んな表情を浮かべていた彼女は、今穏やかな表情のみを浮かべている。

「いや、でも...少し無防備すぎるんだけど...」

少しだけ途方に暮れて宮田は言う。

起こした方が親切なのか。寝かせたまま、毛布でも持ってきてソファに寝かすか。それとも、このままか。

暫く考えた結果、「じゃあ、このままで」と呟いた。

を起こさないように腕を伸ばしてソファに適当に掛けておいたジャケットを彼女にかけ、テーブルの上に置いている雑誌を手にとってそれを捲る。

ページを捲る音と、の寝息だけが耳に入るこの空間がとても心地よく感じた。



「おやおや...」

苦笑しながらその光景に思わず声が漏れる。

「しぃー」と人差し指を立ててがそう言った。

「重いだろう」

「ええ、ちょっとムカつくことに」

苦笑しながらが応えた。

自分の肩に宮田が頭を載せて寝息を立てている。

重いと感じるのは宮田が成長した証拠。

そして、更にムカつくことに、顔が整っている。睫が長いし、目を瞑っていてもかっこいい部類に入ると思う。

「起こしても良いんだよ」

「あー、でも。ちょっと勿体無いなって。ほら、最近のチロちゃんって口を開いたら少しナマイキじゃないですか」

の言葉に噴出しそうになるのを何とか堪えて「すまないね」と謝った。

「ああ、悪い意味じゃなくて。やっぱり、記憶の中にいるチロちゃんがもの凄く素直だったから」

それには頷いた。そうだろうとも。

はゆっくり宮田の姿勢を変えて宮田の枕と化している肩を抜いた。

いそいそと鞄から携帯電話を取り出してそのカメラを宮田に向かって構える。

「ご愁傷様」と思ったが起こそうとか、を止めようとか全くせず、宮田父は我関せずといった感じにその場を後にした。









桜風
09.1.31


ブラウザバックでお戻りください