| 買い物が済んで宮田家へと足を運んだ。 が夕食を作ってくれると言い出したのだ。 まあ、当分そんな珍しいものを口に出来そうにないため、宮田もその提案に頷いた。 父に話すと「大丈夫か?」と、どれを心配しての『大丈夫』なのか問い返してみたいことを言われたが、「大丈夫だよ」と返しておいた。 取り敢えず、春のお花見のときにがお弁当を作ってきてくれていたので、彼女の作るものが破壊的な何かではないことは既に経験済みだから大丈夫だと思う。 家について玄関の鍵を開けているとがニコニコとしている。 何だろう、と思って彼女を見てみると「使ってくれてるんだね」と言ってキーケースを指差した。 「ああ、うん。せっかく貰ったものだし。俺が良いなって思って勧めたものだしね」 そう言って少し照れくさく思い、ポケットにキーケースをしまってドアを開けて家の中に入るようを促した。 上機嫌のは促されるままに「おじゃましまーす」と入っていった。 「チロくん、今日練習は?」 ふと思い出したかのようにが振り返って言う。 「行くよ」 「ご飯食べていっても大丈夫?」 「食べてすぐに行く気はないし」 宮田の返答に納得してはそのままキッチンに向かっていった。 家に帰って来る前に近所のスーパーで材料を購入してきていたので、献立は既に知っている。 「お砂糖どこー?」「お醤油はー?」とに声を掛けられるたびにキッチンへ足を運んで言われた調味料を差し出していた。 「もしかして、チロくんはご飯作れる人ですか?」 「それなりに。父子家庭ってやつだよ?父さん、選手の遠征についていく事だって少なくないし。だから一応、餓死しない程度っていうレベルで食事は作れるよ」 「すごいねー」と目を丸くしてが言った。 どうやら、従兄弟衆はそういうのまるっきりダメなのが集まっているらしい。 「もうね、何でもかんでも女の子たちにスルーだよ」と少しご立腹のがぼやく。 正月やお盆に親戚の集まりがいいと言っていたから、そういう席で色々とやらされるのかもしれないな。 「作りたいって思う相手とかだったら『喜んで!』なんだけどね。全く!」とまだご立腹状態が続いている。 「...俺は?」 「...『喜んで!』の方デス。というか、そうじゃなかったら『作る』なんて自分から言い出さないんですけど!」 と宮田の問いに応えながらは包丁を動かした。 照れているのか、口調と手元が乱暴になっている。あまり突っ込むと怪我をしかねないため、宮田は「それは、光栄です」と返してそのままキッチンから離れた。 一人暮らしで普段から家事をしているのもその要因かもしれないが、手際がよく、早目の夕食を済ませた。父の分はラップを掛けて置いておく。 食器を洗っていると「ねえねえ、チロくん」とが覗うように名前を呼んだ。 何が言いたいのか察して宮田は溜息を吐き、「いいよ」と言う。 その返答はにとっては意外だったらしく、返事を聞いてポカンとしたがすぐに「やった!」と諸手を挙げて喜んだ。 片づけを済ませて自室へと足を向ける。 「ちゃんは、何で部屋なんて見たいの?」 「プライベート空間を除きたいって言うかー...」とが応える。 「別に、面白くないと思うけどね。何もないし」 そう言って自室のドアを開けた。 「おじゃましまーす」と家に入ったときと同じノリでが言い、部屋の中に足を踏み入れて「うわぁ」と呟く。 「だから、今言っただろう?何もない、って」 「いや、無さ過ぎと言うか...此処で何してんの?」 がらんとした部屋だった。 そんなに大きな部屋ではないが、それでも広く感じてしまうほど、殺風景の何も無い部屋。 「まあ..主に寝るため、かな?」 この部屋で寛ぐとかそういうのは考えていない。 宿題が出ていたら、それもここで適当に済ませるかもしれないが... 「な?面白くなかっただろ?」 宮田言うとは拗ねたような表情を浮かべた挙句、頷いた。 何を期待していたのやら、と思いながらにリビングに戻るように促した。 「チロくん、練習何時から?」 階段を下りながらが聞く。 「あー、そうだな」と言いながら腕時計を見た。そろそろ行ったほうがいいかもしれない。練習生も今の時間だったら少ないだろうし。 そんな宮田の表情を見ては彼の考えていることを察して、「じゃあ、今日はもう帰るよ」と言い出す。 「あー、うん。ごめん」と宮田もそう返した。 自分の練習が無かったらもう少し一緒に居られたかもしれないのだ。 「いいよ。チロくんの大切なことだから」と言いながらは玄関に向かう。 「ちゃん」と玄関でブーツを履いているの名を呼んだ。 履き終わり、立ち上がったが宮田を見上げる。 「なに?」 「これ」と言って、いつのタイミングで渡して良いのか分からなかったブレスレットを渡した。 「なに、これ」と目をぱちくりとしながらがそれを見る。 「えーと...これ、貰ったお礼」 そう言ってポケットに入れておいたキーケースを出して見せた。 「いいのに」と苦笑するに 「てか、クリスマスとか誕生日とか色々スルーしてたし。たぶん、もう今日みたいにゆっくり出来る日って無いだろうから」 と宮田が照れながら言った。 卒業まで時間はあるけど、は来週実家に帰ると言っていた。 やはり、一人暮らしをしている方が支出が多くなって非経済的だからと言うのだ。 その通りだと思うし、日本を発つ時にはこっちに来てくれるといっていた。だから、宮田も別にそこまで気にしていない。 正直、日本を発つまで一緒に居たいと思わくも無いが、それは自分のわがまま以外の何者でもないし、そんな子供じみたことは言いたくない。 それでなくとも、との間には『年齢』という如何ともしがたい差があり、自分は彼女より年下で子供なのだから。 「開けていい?」とが聞き、「どうぞ」と宮田が応える。 綺麗にラッピングされてあるそれを剥がして中から出てきたものには嬉しそうな感嘆の声を上げた。 「これ、好き!」 目を輝かせて満面の笑みを浮かべたの言葉に「よかった」と宮田は微笑んだ。 「じゃあ、またね。ありがとう」ともらったばかりのブレスレットを腕につけているは挨拶をして帰っていった。 ジムに行く準備をしながら、さっきのの嬉しそうな笑顔を思い出してもう一度笑う。 「よかった」 プレゼントとかそういうのは初めてで、そして、彼女が好きそうだと思って選んだものだから彼女が気に入ってくれて本当に安堵した。 そして、ひと月後には彼女のそういう笑顔が1年半ほど見られなくなることを思い出して少し寂しく感じた。 |
桜風
09.4.11
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