| 卒業式が終わり、海外遠征の準備の話をしていると電話が掛かってきた。 宮田が出るとそれはからで、 『卒業おめでとう』 と第一声で言われた。 びっくりして反応しそこなっていると 『あれ、間違った?早かった??』 と慌てた声が受話器から聞こえてやっと落ち着く。 「ううん、今日だよ。でも、よく分かったね」 『ウチの地元のニュースで言ってたから。県内の高校の殆どが、って。じゃあ、チロくんもかなって。そっかー、大人の階段昇ったね』 の言葉に「何だよ、それ」と苦笑しながら返す。 「それで、えーと...」 何の用だろう。 『一応、今のが結構大きな名目、かな?』 苦笑しながらが言う。 名目..ということは? 『元気?』 不意にがそう言った。 「あ、ああ。うん、元気。ちゃんは?」 『元気だったよ。でも、チロくんの声が聞けなく寂しかったな』 の返答に宮田がピシリと音を立てて固まった。 取り敢えず、カウンターって何だっけの世界だ。こんなパンチが来るなんて想像できなかった。 「あ、え..と」と言葉を探していると電話向こうのが笑う。 『いいよ、いいよ。普通に『俺もだよ』って返してきたら『誰だ、お前!』ってわたしが言いかねないからね』 「あー、うん」と返すが、その一方で、もしかしてもの凄く子ども扱いされていないか?という疑問が同時に湧いてきた。 しかし、問い詰めても無駄なので聞くのは辞めた。 「出発の日、決まったよ」 宮田が切り出すとは黙り込む。 少し待ってみたが反応が無く「ちゃん?」と声を掛けると「そっか」と呟くような返事があった。 『ホントはね、それを聞かないとなって思って電話したの。でも、ちょっと聞きたくないってのもあったから』 とが言った。 ズキンと胸が痛んだ。 どうしたって自分は我侭か... 「..ちゃん?」 それでも、どちらを選ぶことが出来ず、敢えて選ぶならやはりボクシングだろう。はそれを判ってくれるはずなどと言う甘えを前面に出して。 『それで、いつになったの?』 さっきの寂しそうな口調は既に無く、いつもの軽い口調で聞いてきた。 「来週の月曜日」 「あら、もの凄く急ぎ足ね」と驚いたようにが言った。 「早い方がいいだろうし」と宮田も返す。 『フライトの時刻は?』 宮田が答え、「了解。ゲート前にいくよ」とが返した。 少しお互い言葉なく、無言だったが 『じゃあ、また来週ね』 とから切り出した。 「ああ、うん。また来週」 と宮田が返し、受話器を置く。 出立の前日、宮田はふと思い立って練習を終えて少し足を伸ばした。 年賀状が来ていたから住所は知っている。 何回か道に迷いつつも、そこへと辿りついた。 見上げたマンション。 そこにはがいる。 だが、流石に家にまでは行こうと思わない。ただ、何となく足を向けたいと思っただけだったのだ。 マンションを暫く見上げていたが、やがて諦めたかのように息を吐いて踵を返すと「チロくんだ」と呟いた少女が目の前に居た。 「ちゃん!?」 「どうしたの?」とが目を丸くしたまま聞いてきた。 「あ、いや。明日、あまり話せないかなとか思って。あと、ちょっと何ていうか...」 別に大きな目的があってここに来たわけではないのだ。 理由を聞かれたら『何となく、ただ会いたかったから』としか言いようが無い。 困った表情の宮田には苦笑して、「あがる?」と声を掛けたが、宮田は遠慮した。 「じゃあ、駅前でお茶でもします?」 このの言葉には頷いた。 は笑って「じゃあ、行こうか」と手を差し出した。 宮田はその手を取る。 「ちゃん、冷たいね」 「心があったかいからね」 宮田の言葉にが軽い口調で返す。 「迷っわなかった?」 「少しね」 そんな会話をしながら駅前に着き、がお勧めするカフェに入った。 「わたしもね、早めに東京滞在しておこうかなって思ったんだけど。会っちゃうと『頑張ってね』とかそういう話してさ、空港で話す言葉が無くなっちゃうかなって思って行けなかったんだよね」 が言う。 「それは、悪かったかな?」 今日、ここに来てしまった自分の行動を言うと 「いいえ。嬉しいから良いよ」 とは困ったように微笑んでそう言った。 暫く会話を楽しんで、帰宅ラッシュの時間が過ぎたごろに2人は席を立つ。 「見送る」というも入場券を買って駅構内へと入った。 「10年以上、会ってなかったんだもん」 ポツリとが呟いた。 宮田は驚いてを見ると俯いていた。 「だから、1年半くらいあっと言うまだよ」 自分に言い聞かすように続ける。 宮田は手を伸ばして躊躇った。 ポトリ、とコンクリートに雫が落ちた。 それを目にした宮田は反射でを抱きしめた。 「ごめん」と宮田が呟く。 「日本語勉強しなおせ、ばかー」 涙声のままが返す。 そうだな、と思った。 「ありがとう」 「よし。それに..お互い様だもん。ちょっとチロくんのほうが早かっただけだもん」 「でも、この先も俺のほうが我侭だよ」 「そんなの、年上の余裕を見せてあげるわよ」 の言葉にまた謝りかけて言葉を飲む。 「ありがとう」 宮田の言葉に「よし」と力強くが呟いた。 電車がホームに入ってくる。 宮田は少し腰を屈めてにキスをした。 流石に、明日は父の前でこんなこと出来ない気がする。 「じゃあ、また明日」とが言った。 「うん。また明日」宮田も応えて電車に乗った。ドア前から移動せず、そのまま車内からホームにいるに視線を向けていた。 見えなくなるまで、ずっと。 そして、も電車が見えなくなるまでホームに立ったままそれを見送っていた。 |
桜風
09.4.25
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