| 宮田の練習が終わった時刻にもまだ外には女の子たちが残っていた。 父に言われたこともあって、仕方なく、宮田自身が帰るように促しに出て行く。 「凄いなぁ...」と唸ったのはだった。 暫くして外での説得を済ませてジムの中に戻ってきた宮田は「もう少し待ってて」とに声を掛けてロッカールームに向かっていった。 「チロくんはいつからアイドルになったんですか?」 の言葉に宮田は咽た。 「え、アイドル?!」 「そう。まさしくそれだったよね?」 何のことを指しているのか理解した宮田は深く息を吐く。 「周りに迷惑だからやめてほしいんだけどね」 うんざりしたように言った。 まあ、確かに周囲の迷惑になることは避けてほしいだろう。 そう思いながらも納得した。 「いつ帰国したの?」 「さっき」 の言葉に宮田は目を丸くした。 「実家に連絡は?」 「してたけど、東京に寄るからお迎え要らないって話したし。荷物は宅急便で送ってるから困らないし」 それはそうだろうが... 「何でうちに行ったの?」 「さっきのお土産を渡そうと思ったのと、驚かせようと思って。でも、わたしが驚かされちゃったわよ」 笑いながら言うに「ごめん」と宮田は謝った。 「前々から決まってたの?」 「うん。海外遠征を決めたときから」 「まあ、1年空けるのにあの家を維持し続けるってのも大変だろうしね」とは納得している。 「じゃあ、今はマンションかなんかでおじさんと暮らしてるんだ?」 の言葉に宮田は首を振った。 「お互い一人暮らしだよ」 は驚いて目をぱちくりした。 「何で?」 「うーん。何ていうか。父さんは『父さん』というより『トレーナー』でいてもらいたかったってのがあるから、かな?」 は宮田の言いたいことが分からずに首を傾げたまま眉間に皺を寄せている。どうやら理解できないことのようだ。 そうかもしれないな、と宮田もの考えを想像した。 何故そこまで、と何人かにも聞かれた。 でも、そこまでしなければいけないと思ったのだ。 「じゃあ、チロくんは今何処に住んでるの?」 「ジムの会長の知り合いの不動産屋に紹介してもらったマンションだけど..駅からそう遠くないけど、近くもないかな?微妙なところだから家賃は安いんだ...来てみる?」 さっき日本に帰ってきたばかりだったらは疲れているかもしれない。少し遠慮がちにいってみるとは興味津々の目をして頷いた。 まっすぐ駅に向かっていたその道を逸れて宮田の住んでいるマンションに向かった。 ドアを開けて宮田に促され、中に入ったは「うわぁ...」と声を漏らして「デジャヴ?」と首を傾げる。 の言いたいことが分かった宮田は苦笑した。 まあ、そうだろうな... 正直、生活空間と言うには物がなさ過ぎるのだろう。 玄関先で首をかしげたまま佇んでいるを促して宮田も家の中に入った。 「何か飲む?」と宮田が聞くと「わたししようか?」とが言った。 「いいよ」と断ると「じゃあ、コーヒーが飲みたいですねぇ」とが言う。 「でも、チロくん。家の中、綺麗だね」 が部屋の中を見渡しながらそう言った。 「まあね。流石に掃除くらいはするよ」 そう返しながら笑う。 コーヒーをマグカップに淹れてに渡す。 「あのですね、チロくん」 カップを両手で包んでがもの凄く言いにくそうに切り出した。 「なに?」 カップに口をつけたままそう返して宮田はコーヒーを一口飲んだ。 「今日、お誕生日ですね」 「そーですね」 おざなりな同意だ。 別に、何かを期待しているわけではない。 だって、さっき帰ってきたばかりと言っていたのだし。 それこそ、に今日会えたことのほうが奇跡だと思う。 しかし、宮田のおざなりな同意にはあわてていた。 怒っているのか。怒っているよな。1年半、するりと音信不通だったのだ。それなのに、戻ってきたのは誕生日だけど何もなくて。 の様子がおかしいことにやっと気がついた宮田は久しぶりに慌てた。 「ちゃん!?ちょ、待って。何考えてるんだ?!」 「ごめんなさい。誕生日プレゼント何も用意してなかったの...」 しゅんとしてそう言う。 ああ、そうか。自分にとってどうでもいいことでも彼女にとっては大事件ということは多々あった。 今回もそれなんだ。 「あー、いや違うよ。別に何もなくていいから。本当だから」 「ホントに?」とが覗うように上目遣いで宮田を見る。 「ホント、ホント」 コクコクと頷いた宮田に安心したのかは「じゃあ、今度改めてプレゼントするね」と笑顔を浮かべてそう言った。 その笑顔を見た宮田は何かを考える前に、それこそ反射と言っていいだろう、腕を伸ばしてを引き寄せてキスをする。 合わせた唇を離すと目を丸くして自分を見上げると目が合い、一瞬目を逸らせてを抱きしめた。 「あー、えと。キスしていい?」 宮田の言葉には噴出した。 「今したじゃない」 の言葉に宮田は詰まったが、を抱きしめる腕を緩めて「あれじゃ足りない」と目を見て言った。 まっすぐ目を見られたは気恥ずかしそうにそれを逸らし、「わたしも」と呟いた。 会えなかったその期間を埋めるように、先ほどとは比べ物にならないくらい長く、そして深く唇を重ねた。 |
桜風
09.5.23
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