| そろそろ春休みが終わるということで、地元から再び上京してきたは首を傾げた。 「入ったんだ...」 どうやら自分の借りている隣の部屋を借りた人が現れたらしい。 今まで空き部屋であったために、どこかの広告とかいろんな物がその部屋の郵便受けにはたくさん入っていて、月1回程度定期的に管理人さんがそれを取っていたのだが、今はそれがない。 今日はまだたんまりと溜まっている日のはずだ。 どんな人だろうな、と思いながら階段を昇り、2階に上がる。 出来れば静かな人がいい。 生活音は仕方ないにしても、夜中に大音量で音楽を流したり、友達を連れてきて時間を気にせずに騒いだりする人だったら最悪だ。 それでなくとも、今年は物凄く忙しくなるはずなのだから... の住んでいるのは結構古めのアパートだ。 大学に入って上京するに当たって、色々な物件を見て結局ここに落ち着いた。 物自体は古いが、便利なところにある。 スーパーやコンビニが近くにあるし、意外と駅からも近い。 大学からは少し離れているが、バス1本で通えるし、何より大学のすぐ傍に家があったら友達とかが入り浸ると従兄が昔嘆いていたのを記憶していたので、それだけは避けようと思って探した結果、ここに行き当たり、すぐに契約した。 このアパートには既に3年住んでいる。つまり、この春から4回生だ。 卒論とか死にそうになる、というのも従兄がこぼした愚痴の中で得た知識で、自信も大学生活を送っている中でもそんな空気を肌で感じていた。 だからこそ、お隣は物静かな人がいいと思ってしまう。これは仕方のないことだ。 出来れば美青年がいいとかそこまでは言わない。 ...言っても無駄だし。現実は見えている。大丈夫。 鍵を挿して久しぶりの自分の部屋に足を踏み入れた。 すぐに窓を開けて空気を入替え、そして先ほど駅前で大量購入してきた本をテーブルの上に置く。 どうしよう、最近本を置くところがない... 実家に送ってもいいのだが、読みたいときに手元にないのがイヤでただ今この狭い部屋の中に何とか収納している。 本を開こうとして、ふと気が付いた。 地元に帰るから一生懸命冷蔵庫の中を片付けたので何もない。 本を読むのを中断するのはいやだから、今のうちにスーパーにでも行ってしまおう。 スーパーに向かう道すがら、ジャージを着ている青年を見かけた。 部活動、という感じでもなく、ひたすら走っている、といったイメージだ。 何で人は走るのか... 哲学めいたことを考えて、「走りたいから」と勝手な結論が頭に浮かび、自分は哲学に向かないなぁと苦笑した。 理屈ってのがどうにも苦手だ。 本を読むくせに、とよく言われるが『それはそれ、これはこれ』というやつだ。 大学が始まって数週間は忙しかった。 単位の計算をしつつも必修科目と選択科目のバランスを考えて受けたい講義を選ぶ。 人気があるものは抽選で、それに外れたらどれを取るかということも調べておく必要がある。 ゼミも重要で、卒論に直接結びつくことになるから慎重に選びたい。 如何に楽に、そして就職に有利に動くものを選ぶか。 そんなことを考えて大学の講義を決めている自分に対して呆れるときもある。 以前、妹に「何で大学に行くの?」と聞かれた。 彼女はやりたいことがあるのだが、親が反対して自分の思うような進路が選べないそうだ。 「みんなが行くから。高学歴の方が就職に有利だしね」 精一杯強がってみた。 今の自分のこの生活がどれだけ意味があるのかと考えたら俯いてしまいそうだ。 かといって、自分は人と違う道を選んで苦しい思いをして歩き続けられない。そんな自信がないし、何よりもそんな目標を持っていない。 度胸も、夢もないのだ。 だから、楽な、『みんな』と同じ道を選んで歩んでいる。 両親もその方が安心して口を出さない。 戦おうとしている妹は凄いと思うけど、彼女に申し訳ないが『賢い』とも思えない。 結局、子供は親が居ないと生活できないのだからその親の意に沿っておけば無難な生活は送らせてもらえるのだ。 少なくとも、我が家はそんな感じだから適当に彼らの望む姿を演じてしまえばいいのに、と時々思う。 でも、同時にうらやましい。 彼女は戦ってでも手に入れたい『何か』があるのだから。 そういえば、最近良く見かけるジャージの青年もきっと『何か』を持っているんだろう。 毎日、黙々と走っているその背中に羨望の眼差しを送りながら何度か見送ったことをふと思い出して、思わず俯いた。 |
桜風
09.10.24
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