| ある日、大学のゼミが長引いて結局が帰宅できたのは日付が変わろうとしているところだった。 階段を昇っていると男の人が叫んでいる声が聞こえた。 なんだかイヤだな、と思いながらそのまま階段を昇って2階に出て見てみると、自分の部屋の前に男が居て何事かを叫んでいる。 何が起こっているのかわからないが、どうしたらいいのかもわからない。 こういうことで警察を呼んでもいいのだろうか。 それとも、まずは管理人... ぐるぐると考えながらしゃがむ。ドキドキと心臓の鼓動が早い。 「どうかしたんですか?」 頭上から声がして見上げるとあのジャージの青年だった。 「あの人...」 家の前で叫んでいる人を指さす。 青年は眉根を寄せた。 「あそこ、うちなのに...」 とが呟く。 「...カレシ?」 「相手は選ぶ!」 失礼な!といった感じにが返すと彼は「それもそうだな」と言って男に近付いた。 男は青年にわめいていたが、彼はとても落ち着いていて何事かを話していた。 声を荒げるでもなく淡々と説明したその姿勢が良かったのか、男は首を傾げながらもうひとつ階段を昇っていった。 青年は一度を振り返り、彼女の家のドアを指さして彼女の隣の部屋のドアを開けて入っていった。 「...ってアレがお隣さん?!」 愛想はないが、意外なことに結構整った顔をしていた。 何だ、びっくりしたぞ。 そんなことを思いながら自分の部屋の鍵を挿して入ってすぐに鍵を閉めた。 もちろんチェーンも。 落ち着いて、やっと息をつく。正直、物凄く怖かった。 「...あ」 名前を聞いていない。 お隣さんはどういうお名前なのだろうか。 もう一度鍵を開けてお隣の表札を見た。 しかし、何も入っていない。 そりゃそうだ。 賃貸で、こんなオンボロだから住むと言っても本当に一時的なもので、そんなに長く住むことなんてないと大家さんは言っていた。 自分は結構長く住むつもりなのだが、と思いながら長期賃貸も大丈夫かと確認したら「オンボロだけどね」と大家さんが言って了承してくれているからその言葉を信じて大学卒業後の住まいも探すつもりが皆無だ。 しかし、名前を聞くだけでインターホンを押して「お名前はなんていうんですか?」といえば、先ほどの自分の家の前で叫んでいた男並みに迷惑な話だ。 まあ、でも。 あの青年がお隣さんだと分かったのだから、走っているときに少し声を掛けて名前を聞けばいい。 とりあえず、明日は平日でいつもどおり大学の講義があるからさっさと寝て明日の生活に備えなくてはならない。 しかし、彼の生活リズムは独特なようでその後は簡単に会えなかった。 時々見かけていた時間にも彼は走っておらず、何だかおかしいなーと思いながら過ごし、結局彼に会えたのはあれからひと月以上経ってからだった。 |
桜風
09.10.31
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