| 困ったな、と思いながら帰宅していると前方にぺんぎんのような不安定な歩みでよろよろと帰っている人物を見つけた。 「...さん」 少し躊躇って声を掛けた。 彼女はのっそり振り返る。 「...こんばんは」 声に覇気がない。 手に提げているのは、近くのスーパーの袋のようだ。 「持ちましょうか」 宮田が手を伸ばして返事を聞かずにその袋を手にする。 「ありがとう」 「ぼろぼろですね」 見たままの感想を口にすると 「いやいや。まだまだ小奇麗な方ですよ」 と返された。 「会社にはもっと酷い人たちが居るから。まあ、あのレベルになったらとりあえず花も恥らう何たらには戻れないからねぇ」 と、は苦笑しながら言う。 しばらく無言で歩いていたが、宮田は決意して口を開いた。 「この間」 「んー?」 「何で、ボクシングをしてるかって...」 宮田を見上げては苦笑した。 「ああ。その節は、大変失礼な質問を」 「あ、いや。オレの方こそ、大人げなくて...」 「別に、宮田くんはわたしに『大人げ』を見せる必要はないのよ?年下だもの」 きょとんとした表情で言うになんと言うか複雑な思いを抱きつつも、宮田は視線をさまよわせ、「ごめん」と呟く。 は驚いた表情のまま宮田を見上げていた。 「何か、一方的だったなって」 宮田の言葉には首を傾げる。 これ以上不思議がられたら居た堪れないと思って話題を変えることにした。 「父さんが」 「OPBFのタイトルホルダーだったんだよね?宮田くんと同じくアウトボクサーで」 今度は宮田が驚いてを見た。 「うちの会社の資料の中にあったのよ。ちょうど宮田選手のOPBFタイトルマッチが近かったから色々と勉強しようと思っていたら、見つけて。試合のビデオも何本か見せてもらえたの」 「『宮田選手』って」 「キミでしょ。お父さんは引退されているし、OPBFタイトルマッチをした宮田選手ってわたしは宮田一郎選手以外知らないんだけど。他に居る?」 「...オレも知りませんよ」 少し不貞腐れて宮田は返した。 何だ、その遠まわしな言い方は。少し厭味かと思うではないか。 「オレは、父さんのボクシングが世界に通用するということを証明するって。動機は、それだった」 「じゃあ、まず一歩ってところなんだ?この間の試合」 の言葉に宮田は躊躇いがちに頷いた。 そして、ふと思い出してを見下ろす。 不思議そうに見上げているに 「さんと一緒ですよ」 といった。 「わたし?」 「さんの、『一歩』ってこの間の、オレの試合だったんでしょ?」 宮田の言葉に何のことだろうと考えていたはふと思い至ったコトがあり、「まさか、」と呟く。 「没になったらしいけど、初原稿。この間のオレの試合だったって」 「何で知ってるの!!」 食いつくように質すに宮田は「さあ?」とすっとぼけて見せた。 「ちょっと!誰に聞いたの!!藤井さん?藤井さんだ!!この間、雑誌持ってったもん!!」 「さあ、どうでしょうねぇ」 結構面白い反応するな、と思いながらとぼけ続け、そのままアパートへと辿り着いた。 「今度、飯村さんについて取材とかで来るんでしょ?ウチのジムにも」 「具体的に予定はないけど。飯村さんが行くと言うなら、勉強させてもらいについて行くと思うけど...」 「じゃあ、そのときは練習台になってあげますよ」 宮田の言葉には複雑そうな表情を浮かべて「ご親切にどうも!」と返した。 |
桜風
10.1.2
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