まっすぐ! 10





今日はやけに隣が賑やかだな、と鍵を挿しながら宮田は思った。


「お父さんたちには、うちに来ることをちゃんと言ったのね!?」

念を押す姉に溜息をつきながら

「言った。着いたら電話するようにとも言われてるから、今から電話する。これでいい?」

と返す。

姉は仁王立ちで頷いた。

実家に電話をし、姉に代わって彼女が少し話をしている間に部屋の中を歩く。


『アパート』だからそんなに広くない。

けれでも、意外と片付けられている。

本が大好きな姉が山のように本を積んでいるのに違和感はないが、その積んである本もちゃんと整頓されている感がある。

「ベッド、狭いよ」

「まあ、女同士だからそこまで困んないでしょ」

「あんたがいいなら、大丈夫」

の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。

「なに?」

「ううん。で、どこに連れてってくれるの?!」

「あんた独りで遊びなさいよ。わたしは仕事。これでおまんま食べてますよ」

「えーーーー!!」と抗議する妹に溜息をつき、は会社に電話をした。

泊まりだったらしく、藤井が出てきた。

話をすると「ま、社会見学ってやつで。邪魔しなきゃいいぞ。飯村にも俺から言っておいてやる」と了承してくれた。

伺うようにその電話の様子を見ていた妹には溜息をついて「いいって」と返す。

「やったー!」ともろ手を挙げて妹は喜んだ。


今日は川原ジムへの取材だった。

新しいプロが誕生し、その選手の評価が中々高いとのことだ。

飯村曰く、「どうだか」とあまり評価が高くないが、会社の方で指示をされたことなので、仕事と割り切っての取材となる。

飯村に続いてが入り、その後ろに妹が続いた。

キョロキョロとジムの中を物珍しそうに見渡した。馴染みのない雰囲気だ。

視覚的にも、嗅覚的にも。

トレーナーはの妹を見て笑う。

「若いお弟子さんですね」と飯村に声を掛けた。

「ああ、あの子はの妹です。まあ...社会見学みたいなもの、ですかね?」

そんな様子を見ていた宮田は、隣が少し賑やかだった理由に納得した。

の性格から言って『お姉ちゃん気質』全開だたのだろう。たぶん、少し口煩いくらいではないだろうか。

ふと、に視線を向けると、彼女は妹の様子が気になるらしく、取材の方には集中できていない。

怒られるぞ、と思っていたら飯村に睨まれていた。

思ったとおりになって宮田は苦笑した。

ふと、の妹と目があった。

そらしかけたが、一応会釈だけはしておいた。

家に帰ったときにばったり出会ったら少し気まずくなるかもしれないから。


「ボクサーって何であんなにたくさん居るの?」

「全員がプロじゃないよ。練習生とかそういう人たちも居るから」

妹が上京してきているから、と早めに返されてたちは帰宅しながらそんな会話をしていた。

「練習生?」

「体を鍛えることを目的とした人。特にプロにならなくても体を鍛える人って居るでしょ?空手とかもその道を選んでるんじゃなくて、体や精神を鍛えるために習ってる人だって居るじゃない」

『空手』といわれたらなんとなく納得するが...

「今日、取材した人って強いの?」

「資料が少ないからねー。まだひよっこ記者は資料が少ないとわからないのですよ」

笑いながら言うに妹は俯いた。

「何で、ボクシング?」

「ん?」

「だから、ボクシング雑誌の記者になんでなったの?」

「春休みにそんな話したよね?」

そのとき、ちゃんと返したと思うが...

そう思いながらは首を傾げた。

「だって、他にもあったでしょ?おじいちゃん、元々顔が広いんだから別の..ファッション誌とか。新聞だってあったんじゃないの?」

確かに、言うとおりだ。あった。

あったが...

たぶん、これはささやかな反抗だったのだろう。

親の思うとおりの道でギリギリ外れていないが、思い通りでもない。

そのラインがここにあると思ったのだ。

「知らない世界って、結構楽しいものよ。毎日新しい発見があるし」

誤魔化してそういう。

「...お姉ちゃん。あたしが何年お姉ちゃんの妹やってると思ってるの?!」

「今年で、19年かしら?」

「誤魔化せると思ってるの?」

「誤魔化しじゃないよ」

眩しそうに目を細めてが言う。

「うそよ」

「うそじゃない」

そう。全くのうそではない。

しかし、その返答が気に入らなかったようで妹はプリプリ怒りながら歩調を速める。

素直は美徳だねぇ...

そんなことを思いながらはのんびり彼女の後を歩いた。









桜風
10.1.9


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