| 1週間分の食材を買い込み、しかもそれが徒歩ときた。 は「死ぬ...」と呟きながら重い足取りでアパートへの道を歩く。 「宮田くん!」 前方に見慣れた青年の背中を見かけて声を掛けた。 呼ばれた宮田も振り返る。 「うわ、酷い顔してますよ」 「顔をいちばんに言うな!」 苦笑する宮田には抗議する。 「ね、持って」 「...いいですよ。って、さん。どれだけ食べるんですか。象でも飼ってるんですか?」 「象だったらこの程度の量はペロリでしょ!言っとくけど、これ、1週間分よ」 「ふーん」と相槌を打ちながら宮田は軽々とそれらを持っていた。 「そういえば、妹さんは予定よりも早く帰ったんですね」 1週間程度、と言っていたはずだが結局5日もいなかった気がする。 「ああ、うん。何か満足したみたい」 「妹さんから色々と聞きましたよ?」 はぎょっとした。 「何を?!」 「ま、色々です」 「あの子ってば、なんちゅう置き土産を!!」 ひとり色々と心当たりのあるあれこれを思い出しては頭を抱えていた。 面白いな、と宮田は苦笑する。 「ところでさ、宮田くんの初恋って、いつ?」 「は?!何ですか、藪から棒に。取材ですか??」 宮田が眉間に皺を寄せて言い、は「チッチッチ」と人差し指を動かして否定した。 「宮田くん、君は気づいていないのかね?」 「何をですか?」 「わたしはプライベートと仕事の区別を付けて君に接しているのだよ」 「そうですか?」 宮田が疑わしげな視線を向けるものだから、 「そうなの!これでもケジメをつけてるの!!」 とはムキになっていうが、それが益々怪しい。 「じゃあ、具体的にどこですか?」 「呼び方」 「...呼び方?」 言われて物凄く頑張って記憶の糸を辿ってみた。 何せ、の取材を受けたのは過去に1度だけで結局飯村にダメ出しされていた。 そのとき... 「あ、なるほど」 宮田は納得した。 「分かっていただけましたか、宮田選手?」 「そういえば、そうでしたね」 彼女はその1度の取材のときに自分のことを『宮田選手』と呼んでいた。 の勤めている月刊ボクシングファンの記者たちは自分のことを『君』付けで呼ぶから、彼女の言い方はどうにも硬い印象があったのだが... 「ほらね!」と得意になっていうに「はいはい」と宮田は適当に返す。 「じゃあ、さんは?」 不意に質問で返された。 「は?!」 「初恋。人に聞く前に自分の話しをしてはどうですか?」 生意気!と思いつつも、それもそうだと納得してしまったは話し始める。 まさか、そんな素直に話されるなんて思っていなかった宮田は正直驚いた。 「わたしは遅くて、高校のときなんだけどね。わたしは女子高に通ってて、相手はパターンとしてよくある『近くの男子校の先輩』だったなー。 物凄く一生懸命まっすぐに突進して、ドン引きされた... そうよ...ドン引きよ、ドン引き。酷いと思わない?! 花も恥らう女子高生の純情をドン引きって!! ま、そのときの失恋は授業料だと思ってるわ。まっすぐなりふりかまわず一生懸命突進していったらドン引きされるってね。 次の恋愛があったら、一歩引いた感じでって決めてたのよねー」 「次はいつだったんですか?」 今の言い方だと次もあったようだが... 「ふっ...わたしは今までは学問に生き、これからは仕事に生きるのよ!!」 は拳を天に突き上げてそう高らかに宣言した。 「へー」と特に感慨もなく宮田は相槌を打つ。 「はい、わたしの話はおしまい。次は宮田くん」 「聞いてどうするんですか?」 「や、本当に純粋に好奇心からの質問で。でも、わたしに話させたんだから素直に吐いてね?」 にこりと微笑んでが言う。 もっと長くなると思ったからに話を振ったというのに... 「あー...」と言葉を捜しているとはピンときたらしい。 「わかった!幼稚園の担任のアカリ先生?」 「誰だですか、そのアカリ先生って」 呆れたように宮田が返すとは「んー、」と考える。 「じゃあ、マキ先生」 「だから、誰なんですか。違います」 「じゃあ..小学校のとき、初めて机を並べた..のんちゃん」 「違います」 「もしかして、まだ?」 「ボクシングにまっすぐ一直線です」 言われてみればそうか... は至極簡単に納得した。 「じゃあ、これからか」 「あるかどうか、分かりませんけどね」 適当に、少しぶっきらぼうに返す宮田に 「いい恋が出来ると良いね」 とが目を細めて微笑んだ。 この人はホントに、時々狙ったかのような不意打ちするからずるいよな... 「そうですね」と適当に返す宮田は何となく面白くない。 「ま、さんは次こそドン引きされないように気をつけてくださいね」 大きなお世話な一言を口にした宮田には膨れっ面になって抗議する。 面白いなー... 宮田は笑いながら彼女の文句を聞き流していた。 |
桜風
10.1.30
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