まっすぐ! 13





夏に、ジュニアミドル級の世界戦の予定が発表された。

そして、それから季節が移ろい、冬になる。


試合前日の記者会見会場は既に殺気立っていた。

殺気立っていたのは、選手だけではなく報道陣も、だ。

以前、チャンピオンが日本にやってきて彼らを怒らせたのだ。

まあ、失礼な話だよなーとも思った。

そして、今日は明日の世界戦を前にチャンピオンと挑戦者が同席しての記者会見だ。

チャンピオンは数ヶ月前に日本に来たときと変わらない。

厚顔不遜。

それに溜まりかねて飯村が立ち上がり、質問を浴びせた。

語学力のある飯村は英会話もお手の物で通訳なしで質問が出来る。

そして、通訳なしで相手が何を答えたかが分かる。

返ってきた言葉に屈辱を感じながら腰を下ろした。

そして、チャンピオンはその飯村の隣に座っている女性記者に目を向け、舌なめずりをする。

<ほほう。キミも中々...>

『そういう眼』で見られていると分かっているは表情を崩さず冷静に視線を返していた。

は、飯村ほど英語が堪能ではない。

一応英会話が出来るが、ぎこちなく、ネイティブと会話するには少し自信がない。

しかし、聞き取ることはできる。

だから、彼が飯村に対して発した言葉も通訳を介して聞いたほかの記者よりも早く理解した。

理解したが...特に感じるものはなかった。

今もこうして相手が失礼なことを言っているが特に気にした様子もなく、通訳を介して返されるたびに会場全体の血圧が上がっているのに対照的に冷めている。

波乱含みの記者会見が終了し、記者たちは引き上げた。

「ちょっと!何、あの失礼なの!!あれでチャンピオン?!品位ってものがないじゃないの!!」

帰りながら飯村がプリプリ怒っている。

「まあ、そうですね。失礼でしたねぇ」

「ちょっと!何、その反応。だって相当失礼なことを言われていたでしょ!!」

「ええ、失礼でしたね」

何でこうも温度差があるのか!!

そんな視線を向けて飯村はズンズンと歩いていった。



翌日。

WBC世界ジュニアミドル級のタイトルマッチが開催された。

プレスIDを首から提げて会場を歩いていると「さん」と声をかけられた。

振り返るとそこに居たのは宮田だ。

「あれ?ああ、鷹村選手の激励?」

の言葉に頷く。

「新聞、見ました?」

「ん?」

何のことだろう、と思って首を傾げる。

「今日、家に帰ります?」

「わかんない。帰れるかなぁ」

遠い目をしていうに宮田は苦笑した。

「じゃあ、ドアポストに突っ込んでおきますよ。帰れたら見たら?」

「ん?」

再び首を傾げた。

さんってチャンピオンに何を言われても暖簾に腕押しだったんだろう?」

「さあ?」

自覚はない。まあ、飯村のように失礼な発言に義理堅く反応はしなかったと思う。

「新聞に写真が載ってた」

「どっち向き?!」

「は?!」

今度は宮田が首を傾げた。

「どっちから写真取られてた?こっち?それとも、こっち??」

「...えーと、こっち?」

少し思い出すように視線をさまよわせた宮田はの左側を指した。

「何ですって!!」

「何か?」

「わたし、左からよりも右からの方が写真うつり良いのよ!!」

「...そういう問題ですか?」

苦笑しながら宮田が言う。

は時々突拍子もないことを言う。そこは拘るところなのか、と聞きたくなるところだ。

「どっちも一緒でしょう」

「ちーがーうー!ほら、わたし右目の方が大きいのよ。断然こっち方が可愛く写るって昔言われたもん」

ずい、と顔を近づけてが言う。

面食らった宮田は「顔、近い...」と思って少し距離をとって、「そうかな?」と返した。

「なんてこと!わたし、掲載許可出してないわよ!!」

大げさに言うに溜息をつきながら、ふと宮田は思ったことを口にした。

「何で、腹立たなかったんですか?」

「何が?」

「いや、チャンピオンの。あれ、結構失礼だと思うんだけど...」

記事を思い出して宮田は言う。

「あー、なんていうか。あの人はトークで勝負することじゃないでしょ?」

宮田は首を傾げた。

「ボクサーってのは、リングの上が土俵でしょ?」

「リングだよ」

思わず突っ込みを入れてしまう。

「突っ込み禁止!で、まあ記者会見も仕事のひとつだろうけど、なんていうのかな?あの記者会見でのチャンピオンって、わたしから見たらバスケットゴールに向かってバットを構えて『さあ、来い!』って言ってるような、そんな印象だったのよね」

「なに、それ?」

「んー、滑稽に見えた..て言うのかな?こう..的外れで何言ってんの、この人って感じだったから。腹立つとかなくて。面白いなー、って」

「...さんって変に神経図太いですよね」

「『変に』は余計、かなぁ??」

またしてもずいと近付いてくると距離をとって「それは、失礼」と軽く返す。

ーーーー!!」

遠くから飯村の声がした。

「わ、まずい!」

「じゃあ、仕事頑張ってください」

「はいよ!」

そう返しては飯村の声がした廊下の向こうへと走っていった。









桜風
10.2.8


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