| 自転車を漕いでいると前方に人影が2つあった。 バカップルか!! そう思って自転車のベルに指をかけた。 しかし、どうやらバカップルではないらしい。2人とも見覚えがあるのだ。 そうは言っても、一応ベルを鳴らした。 驚いたように彼らはこちらを向いた。 「こんばんはー」 その場の空気を読めない、と思われても仕方のないの声に宮田は深い溜息を吐いた。 「どうしたの?遠くから見たらバカップルがいちゃこらしてるように見えたんだけど...」 「いえ...」と答えたのは一歩で宮田はに答えることなくそのまま背を向けて歩き出し、一歩へ言葉を向けた。 宮田が遠ざかるのを見て一歩は駆け出す。 何だろう、と首を傾げながらはペダルを踏んだ。 「宮田くん」 「自転車、どうしたんですか?」 「運動不足解消。安かったし」 「ふーん」と少し冷たく宮田は相槌を打つ。 「どうかしたの?」 「...別に」 まあ、いいや。言いたくないことを無理に聞こうと思わない。 宮田の『別に』は『特に何かあったけど言いたくない』を短くした反応だということはいい加減学習している。 「ねえ、宮田くん。これから練習?」 話が変わったので、宮田も普通に応じる。 「ジムには行きますけど。どうしたんですか?」 「つまり、練習はもう終わったということね?」 の言葉に宮田は「一応」と答える。 「じゃあ、そうね...ジムの用事はどれくらいかかる?」 「そんなに長くは...」 荷物を取りに行くだけだし、と思いながら宮田は答えた。 「じゃあ、そうだな...9時ごろにはどう?」 「どう、って...」 「家に帰れる?」 「まあ、帰れるけど...なんですか?」 「じゃあ、お茶碗と箸を持ってうちに来るように」 「は!?」 「じゃ!」 そう言って、はサーっと去っていった。 何だったのだろうか... ジムに戻り、少し父と話をして家に帰る。 アパートを見上げての部屋を確認すると電気が点いている。 ホント、何なんだ... しかし、言われたとおり茶碗と箸を持ってインターホンを押している自分は何なんだろうか。 「はいはい」と言って出てきたは「お、時間前」と言って中に入るように促した。 「お邪魔します」と部屋に上がる。 キョロキョロと思わず部屋の中を眺めた。 「間取りは変わらないでしょ?」 「え?ああ、はい」 女性の部屋に上がるなんて中々ない経験で、物珍しくてキョロキョロしていたのだが、彼女は間取りの確認をされていると勘違いされたらしい。 いや、その勘違いはどちらかといえば有難い。 「あの、言われたとおり、一応持ってきたんですけど」 そういう宮田に「よろしい」とは偉そうに良い、「おこたに入ってて」と言ってキッチンに立つ。 宮田は言われるままにおずおずとコタツに入った。 コタツってどれくらいぶりだろう。 「お正月ね」とが話し始める。 「はい?」 「帰らないって電話したら親が野菜を山ほど送ってきて。白菜とか。もう、これは鍋しかないだろう!って思ったんだけど、一人で鍋をつつくのって寂しいというか...なので、宮田くんは巻き添え要員」 からからと笑いながらミトンを両手にはめたはグツグツと煮立っている鍋を持ってきた。 ああ、だからコタツの上にコンロがあるんだ。 そう思いながら、鍋が乗ったのを確認して宮田は火をつけた。 「鍋ってオレも久しぶりですよ」 「ホント?お肉、どれが良いか分からなかったから各種取り揃えてみたけど。あ、つみれちょっと作ってくるから。先始めても良いよ。 ...って宮田くんは鍋奉行じゃ..」 「ないですよ。好きなときに好きなタイミングで食べれば良いでしょう、鍋なんて」 「よかった」と言ってはキッチンに戻っていった。 グツグツと煮立っている鍋を眺めながら部屋の空気が温かいなーと思う。 物理的な温かさもあるが、そうじゃない温かさ。 「あれ?食べてない。お肉硬くなるよ?」 つみれを作ってきたが、ぼーっとしている宮田を見てそういった。 「あ、うん」 慌てて宮田は姿勢を正し、は苦笑して茶碗にご飯をよそって宮田と自分の前に置いた。 「ありがとうございます」と礼を言う宮田に「うん」と返したはゆっくりと手を合わせた。 「いただきます」 のこの言葉を聞いて宮田は思わず噴出す。 「なに?!」 「いや、やけに滑舌いいなって。声も、ちょっと大きめ」 「えー?普通普通。普通サイズだって」 そう言って笑ったは箸を持って鍋に向かって手を伸ばした。 |
桜風
10.2.13
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