まっすぐ! 16





食事を続けながら宮田はちらちらと自分に向けられる視線に何度噴出しそうになったか...



昨日は無理やり誘われた鴨川メンバーの食事会、というか悪乗り新年会だった。

ホントは行く気なんてこれっぽっちもなかったのだが、が「誘われたから行ってみる」といっているのを耳にして心配になって参加した。

は彼らと年が近いのでどうも親近感をもたれているようだ。

聞くところによると彼女は青木村から『ちゃん』付けで呼ばれているという。

一応、その鴨川メンバーも、幕ノ内がいないということだったし行っても良いかなと思ったのだ。

今、彼とは顔を合わせづらい。

本来なら、鴨川のメンバーとこうやって食事をすることもどうかと思う。これは、ボクシング抜きの付き合いだし。

だが、あのメンバーの悪乗りに免疫のないが参加すると聞いて、自分が不参加というのは不義理のような気がする。鴨川メンバーではなくて、に。

と、言うわけで仕方なしの参加だったが、行ってよかったと思った。

鷹村はセクハラ魔だし、青木は彼女が居たらしくて、彼女も連れてきてにまで気を配っていない。

木村は思い切りにアプローチしている。

しかし、当のは猛烈なアプローチに気づいていないのだから、天晴れだ。

全く...

溜息をつきながらこの場を見守っていた。

少し席を外した隙にがおかしくなっていた。

「何飲ませたんですか?」

「いや、たぶん結果的にちゃんぽん」

宮田はうな垂れた。

この後、誰が面倒を見ると思っているんだ...

「ま、俺が最後まで面倒を見るから」といった木村に邪な何かを感じて宮田は「オレが送ります」と制した。

「お?宮田。ちゃんとそんな仲だったのか!」

余裕の青木がそういった。

『そんな』とは何を指しているのかここでは深く追求しないことにする。

「近所づきあいはあります」と短く返してを促した。

「もーかえるの?」

少し呂律が回っていないが問い、「帰りますよ」と宮田が言う。

「わかった」と返事をして立ち上がったが、足元が覚束ない。

大丈夫かな、と心配しつつ店の外に出てタクシーを捕まえた。


同じアパートに住んでいるとこういうとき楽だ、と思いながら運転手に行き先を告げた。

はどうやら本来は甘えん坊の気質があったらしく、理性がなくなっている今はかなりの甘えた状態だ。

くっついて離れない。

困ったな、と思いながらもタクシーは順調に走ってアパートの前に止まった。

料金を払って2階に上がる。

そして、の部屋の前で止まり、「鍵は?」と聞いた。

「ないよ」と満面の笑みで言う。

「いや、持ってきてるでしょ?ほら、閉まってるし」

そう言ってドアノブをガチャガチャいわせてみる。

「ないもん」

これは、問答をしても無理だと思った宮田は「失礼しますよ」との持っていたバッグに手をのばすと「だめー」とは自分のバッグを抱え込んだ。

困ったなぁ、と宮田は心から思った。

これを無理やり取ろうとしたら、下手したら近所の方たちに警察を呼ばれかねないし...

仕方ない、と宮田は「じゃあ、今晩はウチに泊まってください」と声を掛けた。

「うん!」と嬉しそうに頷くに心底『困ったなぁ』と思う。

を寝かせて、仕方ないので父のところに転がり込むつもりだった。

は宮田のベッドを見た途端、ダイブした。

このまま寝るのかな、と思って部屋を後にしようとしたら「暑い!」と宣言された。

冬でこのボロアパートが暖かいはずがない。まあ、内装はしっかりしてるから隙間風とかはないがそんなに暖かいわけでもない。だから、エアコン等暖房器具が点いていないこの状況で『暑い』というのは物凄く違和感があり、宮田が視線を向けるとは服を脱ぎ始めていた。

さん!?」

下着姿になったは「涼しい」と満足げに笑ってベッドに入り込んだ。

まあ、本人がそうしたいのだからいいか...

宮田は溜息をついて出て行こうとすると「待つの!」と言われた。振り返るとが手招きをしている。

手に持っているコートを置いて、「何ですか?」とベッド脇まで行くとグイ、と腕を引かれて、それが不意打ちだったものだから宮田はあっけなくベッドに転がってしまった。

「これでいい」と言っては宮田を抱き枕に寝息を立てる。

「オレは良くなんですけど...」

自分の呟いた声が思った以上に情けなくて、宮田は少しだけ可笑しくなった。



朝、目を覚ますと固まったが居た。

ちょっとすっとした。

だから、混乱しているのは分かっているけど、置いて出た。

もう少し困らせても罰は当たらない。寧ろ、おつりが来るはずだ。

ロードワークから戻ってみると自分の部屋に貼り紙がしてある。

隣に行ってインターホンを押してみると、シャワーでも浴びていたのかが顔を覗かせて鍵を返してくれた。そして、シャワーを浴びたら家に来るように、と。

面白い人だなぁ、と思いながら宮田はシャワーを浴びての家のインターホンを押す。

髪を乾かすのを諦めた様子のが入るように促したので、入った。

一宿の恩だといって朝食をご馳走してくれるとか。

義理堅い。何より、あの酔っていたときの甘えたはなくなっている。

今はいつものしっかり者のお姉さんだ。

少し残念に思う自分に苦笑しながら彼女の作ってくれた朝食を口に運ぶ。

さんの不安をどうやって、どのタイミングで解消してあげようか...

と今の状況を楽しみながら宮田は充実した朝ごはんの時間を送っていた。

もうちょっと焦らして意地悪するのも悪くないと思う。

ちらちらと自分に向けられる視線を受けながら宮田は心の中で苦笑をもらした。









桜風
09.3.6


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