| 「宮田くんって一途だよねぇ」 玄関先で会ったがしみじみという。 「は?」 「あ、ちょっと待ってて」 そう言っては一度自分の部屋に入っていった。 何なんだろう... そんなことを思って宮田が言われたとおり待っていると再び彼女が出てきた。 「これ、お土産」 「何?」 「大阪に行ったから」 「...大阪?」 そこでやっと思い至った。 「あいつか」 「そいつです。...ってどいつ?」 頷いたは良いが、違っているとまずいかも、と思ってが聞き返す。 「大阪のうるさいやつ」 「名前。名前で言ってあげようね?」 「千堂、でしょ?」 はそこで頷いた。 「うん。再起戦が決まったって聞いたから」 「また飯村さんと?」 「雛もそろそろ独り立ちですよ」 笑いながらいうに「不安ですね」と宮田は返してみた。 「よーし!キミの今度の試合はいつだ?!取材に行ってみるぞー!そして驚かせてみせるぞー」 ぶんぶんと肩を回しながらが言う。 宮田は苦笑して「楽しみですね」と余裕綽々で返した。 「そういえば」と宮田は思い出す。 「さっきの。藪から棒ですよね?」 「一途?」 の言葉に宮田は頷く。 「藪から棒かなぁ?」 「出会い頭の一言だったし」 そういわれれば薮から棒かも、と納得する。 「で?突然何でですか、一途って」 何故、と問われても... 今回取材に行ってふとそんなことを思ったのだ。 ボクサーはそれぞれが一途だと思う。 だが、なんと言うか。 宮田の一途ってどう言って良いのか... 上手い言葉が見つからない。 自分のために、とボクシングをしているボクサーはたくさんいる。 ただ、なんと言うか。 自分のため、ひいてはお客さんとかファンのためということを考えているボクサーって少なくないと思う。 『プロ』である以上、お客さんを満足させるというのもその仕事の中に入っていると思う。 だから、そういうことを考える人は邪だとか、真剣じゃないとか言うつもりはない。 ないが... 宮田はあまりにもそういうのがないような気がする。 ベストの試合をすることが即ちお客さんが満足するというある意味結果論的なところがあるような... それを悪いというわけではないが、ないが... なんだろう。 「さん?」 俯いているの顔を覗き込んで宮田が声をかける。 「んー、上手くいえない。けど、宮田くんってこうでしょ?」 そう言って両手を顔の幅に固定してそのまま前に手を伸ばす。 「視野が狭いってことですか?」 突然のダメ出しと思われる行動に宮田は眉間に皺を寄せて問う。 「狭いんじゃなくて、まっすぐ。飽くまで前しか見てないって感じで」 それの何が悪いのだろう。 進まなければならない。だったら、前を見るのは当然だ。 口に出さないまでも宮田は表情に出していた。 だから、は余計に慌てる。 「えと、あの...試合が終わったその瞬間くらいは、振り向いても良いんじゃないかな?って...ごめん」 シュンとなった。 1年前だったら確実にムカついていた。 けど、何となく今はそこまでムカつかない。彼女が一生懸命何かを伝えようとしているからか、はたまた別の理由か。 まったく、人との付き合いってのは不思議だ。 「試合が終わったとき、ですか?」 「うん。応援してくれているお客さんの顔を見るとか。そういうのって...」 「しないですよ、基本的に」 「よね?宮田くんがお客さんにこう..お客さんの声援に対して応えている姿って見ないなーって。ガッツポーズは見たことあるけど、あれってお客さんの声援に応えてってものじゃないでしょ?」 よく見てるんだな、と宮田は感心する。確かに、感極まって思わずガッツポーズをしたことはあるが、声援に応えてのそれではない。 「...ま、気が向いたらしてみますよ」 どんな意味があるかは分かりませんけどね、と心の中で付け加えて宮田は土産の礼を言って帰宅した。 「出すぎた真似、だったよねぇ」 閉まったドアを見つめては呟く。 自分はもう少し慎重になった方がいいと思う。 |
桜風
10.3.13
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