| 「はい、上がりましたよ」と宮田が声をかけると、「ありがとうございます」とは深々と頭を下げる。 「それ、どうしたんですか?」 「あー、親がね。今度これを着て来いって」 「帰郷ですか。あ、お盆もこっちにいましたもんね」 「まあ、帰郷は帰郷だけど...」との言葉の歯切れが悪い。 「何か、あるんですか?」 「お見合いが待ってるというか...この間写真が送られてきたのよ。物凄い長い釣り書きがついてたから読むの面倒になってそこらに投げてるけど」 「は!?」 宮田は反射的に声を上げていた。 「お見合い??」 「うん。祖父の体調が良くないみたいだから、父も強気に出てきたんでしょうねぇ。元々、大学を卒業したら帰ってくると思ってたらしいから」 「さんが?」 「うん。ウチの父は野心家の割りに、肝が小さいというか...ちょっと歪んでいるというか...」 彼女が言うには、彼女の実家は地元では結構有名で、祖父が一代で会社を立ち上げて大きくした人らしい。 その息子、即ち自分の父親は周囲にいつも祖父と比べられて卑屈になっているところがあるとか。 父の妻、つまり自分の母親は母親で自己顕示欲が意外と強い人で父が祖父を超えるようにといつも励ましているのだが、それはそれで逆効果というか... 今の会社をより大きくしたいというのが父の目標で、だったらどうしたら良いかと考えて、政略結婚。 幸いなことに、自分に娘が2人もいる。 ただ、あとを継がせたいから婿養子に入ってくれる大きな企業の次男坊とかを血眼になって探していたとか。 に帰って来いといえなかったのは祖父の勧めでの就職だったから。 超えたいと思っていると同時に逆らえないのだ、自分の父親に。 「じゃあ、さんが今の会社を選んだのって...」 「ま、不純な動機ですよ。東京に残るのは此処しかなかったからね。祖父もそうしておけって言ってくれたの」 笑って言う。 「え、でも。あれ?」 「で、今年に入ってから祖父は体調を崩して。高齢だし、若い頃に無理をしたからって自分で言ってたけど。そこで父が強気に出たのよ。『もう記者ごっこもいいだろう』って」 「...ごっこ、って」 何だかムカムカしてきた。あんなボロボロになるまで仕事をしている人に向かって『ごっこ』というのか。 「まあ、仕方ないよ。今までのわたしがわたしだし」 困ったように笑うに宮田は暫く悩んで、口を開いた。 「受けるん、ですか?」 「破棄になるように頑張るけど...『いい子』を演じるのに慣れてるし、それが染み付いてるからね」 どう転ぶのか、と。 「あの子が、大学を出るまでは粘ってみたかったけど」 呟いたの声に驚いた。 「まさか...」 「あの子が大学を出て、自活できるようになったら反旗を翻すつもりでいたんだけどねぇ。こういう、周りが関係するタイミングってのは中々見極めが難しいよね」 苦笑していうに宮田は言葉を失った。 「言った、のか?」 「ん?」 「だから、あんたの妹にその話したのかよ」 はきょとんとして首を横に振った。 あの妹だってこの話を聞いていたらもっと早く進学を決めて、少なくともこの事態は1年は縮められただろうに。 「わたしは、窮屈に慣れてるからね」 笑って言うに宮田は腹が立ってきた。 「笑い事じゃないだろう!」 「ですねー。ま、口は上手いほうだし、のらりくらり逃げてみるわよ」 尚も言い募ろうとした宮田だったが、結局言葉が見つからずにそのまま無言で出て行った。 バタンと大きな音を立てて閉められたドアを見つめながらは苦笑する。 「ありがとうございます」 深々と頭を下げた。 宮田は心から心配して、だから腹が立って怒ったのだ。 はそれがとても嬉しかった。 |
桜風
09.4.3
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