| 勿忘草 2 |
| が木村家でホームステイし始めてから数日が経った。 「達也!達也ぁ!!」 部屋で寛いでいると階下から母に呼ばれる。 面倒くさいと思いながらもその声に応じて階段を下りていく。 「何だよ。」 「ちゃんが出かけるんだよ、付いて行ってあげて。」 「いえ、いいですよ。叔母様。達也に悪いですから。」 「そうは言ってもねぇ...。もう15年も経っているんだから、随分変わったんだよ、色々と不便なことが多いから。どうせ達也は暇してるんだから遠慮なくこき使えばいいのよ。」 「...。」 (否定は出来ねぇし、今はするつもりもねぇけど、そう言われるとムカツクよな。) 母の言いように木村はムカついたが、少しくらい本当だし、に気を遣っての発言だと分かっていたから口は挟まなかった。 「達也、本当に大丈夫?」 が木村に目を向ける。 「あ?まあ、4時くらいまでには終わるんだろ?それなら大丈夫だよ。」 「じゃあ、お願いしてもいいかな?私、実は日本語少し忘れちゃってて...。ちょっと心配だったんだ。」 日本語を忘れるということが想像できない木村は呆れながらも「いいぜ。」と愛想よく答えた。 「ごめんね、達也。」 車の中でが謝ってくる。 「いや、いいって。昔からお袋もを娘みたいに思ってるんだから、の世話を焼きたくて仕方ないんだよ。んで?何買いに行くんだよ。」 「ええと、色々。ちゃんと時間内に終わるようにするから。」 「そうだな、そうしてくれ。...ってもしかして俺くらい背あるんじゃねぇの?」 さっき自分と話すを少し見上げる形になってたことに気付いた木村が聞く。ハイヒールの高さを引いても自分くらいありそうだ。家にいるときは大抵座っていたりと身長を感じる姿勢で話したりしていなかった。 「んー、たぶんね。ニョキニョキ伸びちゃったから。前に測ったときは170だったかな?」 「やっぱ俺くらいあるじゃねぇか。外国行く前はかなりチビだったのにな。」 「そういえば、そうだね。達也の方がお兄ちゃんだってよく間違われたもんね。そういえば、達也は4時ごろから何かあるの?デート?」 「いや、ジムに行かないといけねぇんだよ。」 「ジムって、スポーツジム?」 「いや、ボクシング。」 木村の答えを聞いたが驚く。 「ボクシング?!」 「そんなに驚くことかよ。」 の驚きように少し憮然としながら木村が声を掛けるとは 「ボクシングって、あのボクシングだよね。だって、達也ってそんなイメージなかったんだもん。はぁ、やっぱ15年のブランクは凄いんだ。全然変わってるなぁ...」 と感嘆の言葉を漏らした。 「まあ、そうかもな。でもだって随分変わったぜ?お袋から聞いたんだけど、大学って工業系に進んだんだって?壊し専門だったがなぁ...」 昔のを思い出しながら木村が言う。 幼い頃、好奇心旺盛だったはよく木村のものを分解してはそれを元に戻せなくなっていた。だから木村は大切な物は絶対にの目の届かないところに隠していた。 「今は色々直せるよ。バイクのメンテも出来るし。達也、バイク持ってるんでしょ?今度見てあげよっか?」 「本当に出来るのかよ。前科が結構あるからなぁ。バイクを壊されちゃ堪んねぇしな。」 悪戯っぽく笑いながらを見ると少し頬を膨らませて「もう大丈夫だもん」と呟いていた。 (こういう顔したらだってすぐに分かったのにな。) 昔の面影を見つけて木村は少し嬉しくなった。 目的地に着いてに付いて歩く。 本当に色々買うらしくあちこちの店に入り、それなりの量の買い物となった。 その量をに持たせるわけにはいかないと思う木村はの持っている半分以上のものを半ば奪うように持ってやる。 「ありがとう...」 「いや、こん位なんでもねぇよ。」 そのまま話しながら歩いているとが人にぶつかってよろける。 「っと、大丈夫..か?」 こけそうになったの腕を掴んで木村は少し後悔した。 昔から自分より小柄でそそっかしいがこけそうになるのを何度も支えたりしていた。 だから、今の自分の行動は昔と何も変わらないもののはずだった。 でも、違った。 昔は棒っきれのようだったの腕は、細いけど柔らかく少し力を入れたら壊れてしまいそうなそれになっていた。自分が男であるということと、が女であることを改めて意識する羽目になった。 (くっそー、考えねぇようにしてたのに...) しかし、今更後悔しても遅い。 一度意識してしまうとなかったことには出来ない。 (これからどうすりゃいいんだよ。) 木村は前途多難になるであろう日常生活を思って途方に暮れた。 |
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