勿忘草 3





「そういや、木村。お前ちょっと前に女と歩いてたんだって?」

ロードワークの途中、青木が聞いてきた。

「女?...いつの話だよ。」

記憶にない木村は眉間に皺を寄せて聞き返す。

何度もいうようだが、木村は1年くらい前に『れーコ』に失恋している。その後も残念ながら色のついた話はない。

「2週間くらい前に見たってトミ子が言ってたぜ?」

(2週間くらい前?...ああ、だ。)

「何?!木村はまた振られるのか?」

青木と木村の会話が聞こえた鷹村が話に入ってきた。

「いや、そんなんじゃないですよ。従姉ですから。青木も知ってるはずだぜ。だよ、。」

ってあの『チビ』か?」

「ああ、お前そう言ってよくいじめてたよな。でも、今は俺たちと殆ど背の高さは変わらねぇから『チビ』なんて言えねぇぞ。」

木村の幼馴染である青木も幼いときにはと遊んでいたが、どうも青木はを時々いじめてしまう癖があった。反応が素直に返ってくるから楽しかったのだろうが、が泣いたあとは必ず木村がそれを宥めていたから木村としてはいい思い出ではない。

「へえ、あいつ帰ってきたんだ?外国に行ってたんだよな。」

「まぁな。南極大陸以外住んだことのない大陸はないって言ってたな。ずっといろんな国を父親の転勤に家族でついて回ったみたいだぜ。大学も卒業したし、親の帰国も決まったからこっちで就職するつもりでいるんだと。」

「はぁ。んじゃ、今独り暮らししてんのか。長い外国暮らしの後なのになぁ。」

「だからウチにいるぜ。日本語も微妙に怪しくなってるからな。」

「よし、じゃあ今日は練習が終わったら木村の家に行くぞ。」

ずっと木村と青木の会話を静観していた鷹村が突然そんなことを言う。

「は?」

抗議の念も込めて聞き返してみたが見事に黙殺されて殆ど決定事項となった。

項垂れながら走っていると後ろから声を掛けられる。

「達也?」

名前を呼ばれて振り返ると先ほど話題に上っていたが自転車に跨っていた。

「どうしたんだよ、こんな時間に。」

木村は『こんな時間』と言っているが、まだ夕方といってもおかしくない時間だ。は昔からまるで兄のように自分を心配してくる年下の従弟の変わらないところを見て思わず笑う。

「何だよ?」

「ううん、何でもないよ。...もしかして、勝君?」

青木の姿を見ては声を掛ける。

「おうよ。さっき木村からが帰ってきてるって聞いたけど、本当だったんだな。」

「そうだね。勝君が達也と一緒にボクシングやってるってのも本当だったんだ。」

「まあな。しかし、でかくなったな。本当に俺たちとあまり変わんねぇな。」

「もう『チビ』じゃなくなったよ?そうそう、達也。今度バイク貸して。あんまり乗ってないんでしょ?」

「バイク貸してって...。、免許持ってんのかよ。まあ、いいけどよ。」

「ありがとう。免許は国際ライセンス持ってる。持ってないと不便だったし。じゃあ、私帰るね。練習中に声を掛けたりしてごめんね。」

そう言って木村たち、鴨川メンバーを追い越して帰っていった。

それを呆然と見送っていた鷹村が突然木村に顔を向け、

「木村、本当にアレはお前の従姉か?!」

と聞いてきた。

「綺麗な人でしたね。」

「いいなぁ、木村さん。あんな美人な従姉がいるなんて。」

一緒にロードに出ていた一歩と板垣も言ってくる。

「...母方の従姉ですよ。」

木村は、が鷹村たちに興味を持たれたのが面白くなくて愛想なく答える。

「美人じゃねぇか。貴様と全然共通点がないぞ。」

「『姉弟』じゃなくて、『従姉』ですからね。あまり似ていませんよ。」

「美人?並じゃないっスか?トミ子の方がいい女だと思いますけどね。」

後ろで青木が何か言っているが4人は聞こえなかったことにしていた。

「よし、木村。アレを紹介し「嫌です。」

鷹村が言い終わらないうちに木村が返した。

鷹村に紹介しようものならの身が危ない。彼女を守るのは幼い頃からの自分の役目だった。

鷹村が実力行使できたらどうしよう、などと少し腰が引けていたがその心配はなかったらしく、「じゃあ、仕方ねぇな。」と鷹村が奇跡的にあっさり引いた。

何とかを守ったと安心していたが、やはり鷹村は木村の態度にムカついていたらしく、その後の練習で当然に八つ当たりを食らった。




書いていて、今はいつの時期の話なのか自分で分からなくなってきました...
板垣が居るってことは...キム兄さんのチャンピオンカーニバルが終わった年なのかなぁ??
多分それくらい。
鷹村さん、キム兄さんが振られるって決め付けちゃってます(笑)


桜風
05.3.16


ブラウザバックでお戻りください