| 勿忘草 5 |
| が木村家に来て半年近く経った。もうすぐ、この生活も終わる。 (良いんだか、悪いんだか...) ここ数日、木村はそんなことを考えていた。 が帰国した日に見た夢を思い出す。 幼い頃に交わした約束。 でも、それは幼さ故のものだった。が覚えているはずもなく、自分自身、忘れていることにしていた。 『忘れていることにしていた』 つまり覚えていたのだが、どうにもできないことだったから忘れたフリをしていたかった。 ある日、家にいると両親が興味津々で聞いてきた。 「達也、お前ちゃんとどうなんだ?」 「『どうなんだ?』って何だよ?」 「『何だよ?』って...。付き合ってるんじゃないのかい?」 (...そんなことを考えながら俺らを見てたのかよ。) 「別にどうもなってねぇよ。何だってそんな想像ができるんだよ。はただの従姉だよ。」 そんな話をしているところにが帰ってきた。 木村は何故か後ろめたさを感じる。 (聞かれちまったか...?) 「ただいま。今日は寒いですね。達也も出かけるときは暖かくしてった方が良いよ?」 「ん。わかった。」 何事もなかったかのように話すを見て木村は安堵した。 しかしそんなことがあった日の夜、木村がジムでの練習が終わって帰ると母に 「達也、ちゃん見なかったかい?」 と言われた。 「?いや、知らねぇけど。いないのか?」 「そうなんだよ。夕飯できたから呼んだのに返事がなくて、部屋を覗いてみたら姿が見えなくてねぇ。」 「んー。でもももうガキじゃねぇんだし、こっちに帰ってきて随分経ってるんだから昔の友達とかに会いに行ったんじゃねぇの?」 「母さんたちに何も言わないでかい?」 「まぁ、それは少し変だけど...。とにかく、もう少し様子を見てみようぜ。」 とりあえずそう言ってはみたものの木村自身心配だった。 (置手紙くらい書いて行けよな。) そのまま木村は自室に戻ってが帰ってくるのを待った。 しかしから連絡はなく、遂には日付が変わっても帰ってこない。 ここまでくると心配するなという方が無理だ。 「俺、ちょっと探してくるわ。」 そう言って木村は家から出て行く。 機動性のことを考えて車ではなく走ることにした。 自分の思い当たる場所に走る。 近所の公園、最近一緒に出かけたところ、帰国してからが見つけたと嬉しそうに話していた喫茶店。 (くっそー、どこだよ。何で俺が分からねぇんだ...) 焦りと苛立ちばかりが募ってくる。 家に電話してが帰ってきていないか聞こうとして、携帯を家に忘れたことに気付いた木村は一度家に戻った。 もしかしたら自分の携帯に『昔の友達に遇ってそのまま一緒にいる』とか連絡が入っているかもしれない。 そうであればいいと思いながら家に向かって走った。 「お袋、からは?」 「まだ連絡ないよ。達也も見つけられなかったんだね...。ちゃん、どこ行ったんだろねぇ。」 とにかく部屋に戻って携帯を見るが連絡は入っていなかった。 再びそれを持って外へ出ようとしたとき、店の中の花が目に入った。 名前は知らないが薄い青色の小さな花。 ふと、あのときを思い出す。 『大きくなったら結婚しようね、。』 『うん。約束だよ。』 「あいつ、まさか...」 「どうしたんだい、達也。どこか思い当たる所でもあるのかい?」 母が何か言ってくるがそれを相手をする時間が惜しい。 木村は車のキーを手にして家を出た。 一応バイクの所在も確認してみるとそれも見当たらない。 (たぶん、間違いねぇ。) 木村は車のエンジンを掛けて走り出す。あの場所に向かって... 「...。やっぱここかよ。」 バイクの傍で座っているの姿を見つけて安堵する。 「達也。何でここが分かったの?」 木村はバツが悪そうに頭をガリガリ掻いての前に膝をつく。 「ここってお前が日本を発つ少し前、伯父さんに一緒に連れてきてもらった所だろ?...それに。」 一度言葉を区切って深呼吸をする。 幼い頃は何でもなかった言葉。しかし、今の自分にとっては凄く重い。 それはきっと自分が、が成長した証拠なのだろう。 「それに、ここは俺がその時お前にプロポーズした所だろ?『大きくなったら結婚しよう』って。」 「覚えてたの?」 が泣きそうな顔をして聞いてくる。 「ああ。でも、もう一度アレを今すぐ言えって言われても難しいな。」 木村の言葉を聞いては自嘲の笑みを浮かべた。 「だよね...」 (あんな小さい頃の約束だもん。達也が覚えてくれてただけでもきっと奇跡だったんだよ。ここにいる私を見つけてくれたことも含めて...) 「今の俺は自信も何もねぇ。ガキのときとは違う。その言葉はちょっと、いや、凄く重いんだ。だから、もう少し待ってくれないか?今言える言葉といったら...『風邪引く前に一緒に帰ろうぜ?。』だな。」 立ち上がった木村は優しい笑顔を浮かべて手を差し出してきた。 昔と変わらない優しい彼。 は嬉しそうに微笑み、木村の手を取って立ち上がる。 「そうだね。何も言わないで出てきちゃったから叔母様たち心配してるよね。」 「ああ。帰ってたら説教が待ってるぞ。覚悟しとけよ?...俺も色々とお前に言いたいことあるんだけど、まあ、今日は勘弁してやるよ。」 「やっぱり...。」 木村の言葉を聞いてが項垂れる。木村はそんなの頭にポンポンと軽く手を乗せた。 が乗ってきたバイクを何とか車に積んで木村の運転で家に帰った。 木村家に着くと、予告どおりには木村の両親の説教が待っていた。 小一時間正座で説教を受ける。 「ごめんなさい。」 「まあ、無事だったから良かったよ。おばさんたち、本当に心配したんだからね?」 「はい...」 やっと解放されたは足が痺れて動けなくなっていた。 「ほら。」 説教が終わるのを見計らって木村がコーヒーを淹れてくる。 「ありがとう。相当心配掛けちゃったみたいだね。反省...」 「まあ、しっかり反省しろよ。俺だってお前が見つからないときかなり焦ったんだからな。」 「はーい、以後気をつけます。...ねぇ、達也。」 「あ?」 「達也って花の名前とか色々知ってる?」 突然そんなことを聞かれた。 「いや、最近は勉強して少しくらいなら知ってるけど。親父たちに比べたら全然知らねぇな。たぶんよりも知らないと思うけど、どうかしたか?」 「じゃあ、やっぱりアレって適当に摘んだだけなんだ...」 「『アレ』?」 「うん。昔、あそこで達也がくれた花があったでしょ?あの花。あれは、『ミオソチス』だったんだよ。」 「ミオ..ソ、チス?」 「そう、和名は『勿忘草』。花言葉は『私を忘れないで』。それと、もうひとつ。『真実の愛』。家に帰ったときパパが教えてくれたの。花は、すぐに枯れちゃったけどね。」 「...マジで?」 (俺って無意識にそんなクサイことをしていたのか...。それってどうよ?) 木村は顔が熱くなるのが分かる。 「凄いよね。あの時貰った状況にぴったりだったと思わない?...ねぇ、達也。」 「今度は何だよ。」 恥ずかしくて顔を上げられず、ぶっきらぼうに声を返す。 「また、いつかあの花を頂戴?勿忘草。」 「...そうだな、今度は枯れないように鉢植えのをやるよ。いつになるか分かんねぇけどよ。」 そんな木村の言葉を聞いては木村に抱きつき、その姿勢のまま 「なるべく早いほうがいいな。」 と言ってみた。 「努力します...。」 木村の答えには笑みを零して囁く。 ――― Forget‐Me‐Not もう、私を忘れないでね? ――― |
ちょっと長くなってしまった...
切ると短く、切らないと長い。ハンパだ。
最後までお付き合いありがとうございました。
今度はも少し長い連載書いてあげたいって思います、キム兄さんオンリー連載。
桜風
05.3.30
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