| 昔住んでいた家を引き払って一人暮しをすると決めたとき。 全部『思い出』は捨てるつもりだった。 けれど、捨てられなかったものもある。それは、アルバム。 別に昔を懐かしむなんて柄じゃないし、そのつもりもなかった。 ただ、どうしても捨てられなかった。 普段は部屋の本棚に並んでいるそれに目が行ったのは本当に偶然だった。 いや、必然だったのかもしれない。 けれど、俺はそれにまだ気付けないでいた。 |
| はあっさりと引っ越していった。 彼女から引越しの話を聞いたときも思ったけど、本当にあっさりしていてこっちの方がもの凄く寂しさを感じていることを思い知らされる。 それでも、俺はそろそろプロボクサーのリングに手が届くという距離まで来てからは本当にのことも省みずにただ只管自分の夢に向かっていた。 は昔からの俺を知っているし、理解してくれているはずだという何処から来ているのかそんな根拠のない自信を抱いていた。 実際、俺がボクシングばかりしていてもは文句を言わなかったし、練習で休みに時間が取れなくても笑って頷いていた。 正直、俺はに甘えていたんだ。 それに気付いたのは、ジムに来た同じ年のやつに負けたとき。 慰めてほしいとかそんなことは思っていない。 けど、一緒にいてほしいと思った。 隣で笑ってくれたらどんなに癒されるか。 は静かに微笑むとか、そういうのが似合うヤツじゃない。 寧ろ豪快に声を上げて笑う。その方が似合っている。 そして、俺はのそんな思い切った笑顔が好きだし、声も好きだった。 中学の頃だったか、自分の気持ちに気付いてやっとの、思いのほか小さい手を握ったとき。 手からの緊張が伝わったけど、突然笑い出す。 何で笑っているのか理由は分かっていた。ちゃんと自覚くらいしている。 それでも、の笑い声が何だか心地良くて、そしての握ってくる手の強さと体温が丁度良くてそのまま歩き出した。 そうだ。 初めてキスしたときも失敗したけど、が笑い出して俺もその笑い声に連れて笑って。 その時、言ったと思う。の笑い声が好きだ、と。 本当は笑い声だけじゃない。沢山好きなところはあった。 失敗して落ち込んでいたかと思っても突然笑い出して、ひとしきり笑ったら「はい、次!」と言って顔を上げる。 そのクセ、泣き虫だ。 は何度も俺の前で泣いて、その度に俺はどうしていいか分からなくて「泣くな」ということしか出来なかった。 子供の俺は、どうやったらが泣かないですむか。笑ってくれるか分からなくて、だからただ泣くなと言うことしか出来なかった。 「19歳の最後の日。またあの公園で会おう」 「大人になる30分前!」 不意に頭の中に甦ったその言葉にハッとした。 携帯を開いて俺は慌てて家を飛び出す。 8/26 23:28 |
桜風
07.12.1
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