| 俺はあと2分で約束の場所に着けるようなスーパーマンじゃない。 只管足を動かして駅に向かい、2駅向こうの懐かしい町へと向かった。 いつもと同じ速さで走っているはずの電車をもどかしく思いながら、イライラと時計を見る。 当たり前だけど、とっくの昔に約束の時間は過ぎていて。 寧ろ、があの約束を覚えているとも限らないからあの公園に行ってもは居ない可能性だってある。 それでも、諦めたくなかった。 行っていなかったらそれでいいじゃないか。 |
| 駅から再び全力で駆ける。 目の端に映るこの街の風景が少し変わったことに気付いたけど、そんなことを懐かしむ余裕はなく、俺はあの公園に向かった。 公園の入り口に着いて息を整えながら携帯の時計の表示を見る。 8/27 0:00 とうとう、俺たちは大人になってしまった。 いい事か悪い事かなんて今の俺にはさっぱり分からないし、この先だってきっと分からない。 ただ、今分かっている事は、俺の隣にがいないこと。 ふと、顔を上げると向こうの公園の入り口に人がいたようでその人影は小さくなっていく。 まさか... 再び俺は地面を蹴って走り出す。 公園から出て人影が消えていったほうを見れば、確かにいた。 夢中でその人を追いかける。 俺はその人に近付いていくにつれて確信する。 「!」 名前を呼んだ。 間違いない。彼女だ。 彼女はゆっくり振り返り、そして、目を大きくした。 は、あの約束を覚えていたんだ。 だから、こんな時間にあんな何もない公園に居たんだ。 足を止めて俺を待ってくれていた彼女の前にやっと立つことが出来た。 「悪い、遅くなった」 30分以上の大遅刻だ。 は驚いたように眉を上げて「覚えて..?」と呟く。 「約束、しただろう?っていっても大遅刻だけどな、悪い」 俺の言葉を聞いては頬を膨らませて 「ほ、本当だよ。お陰でわたし大人になっちゃったじゃないの」 と抗議をした。 ああ、そうだな。子供として最後の冒険だって言ってたのに。俺は付き合えなかった。 「そう、だな。誕生日おめでとう、。あと、遅刻してごめん」 の瞳からポロリと涙が零れる。あのときを、思い出す。 「また泣くし」 正直、に泣かれると、弱い。 流れる涙を手で拭えば、少しだけくすぐったそうな表情を見せる。 「泣いて、ないもん」 と強がりを言うはゴシゴシと目を擦り始める。 慌てて、その手を止めるために掴むと、彼女の腕には大きすぎると思われる腕時計が嵌っていた。 少し、ビックリした... 「使ってくれてるのか。でも、ゴツイだろ。服に合わなくないか?」 俺が聞くと 「いいの。一郎から貰ったものだもん」 と言われて正直、結構嬉しかった。 そういえば、が引っ越した町から此処は遠すぎる。 「...は、今何処にいるんだ?」 聞いてみた。今日はホテルとか? 「駅ふたつ向こうの町」 ...え? 「帰ってきてたのか?」 「大学、こっちにしたの」 ああ、そうか。大学生か。そして、駅ふたつ向こうってことはもしかしたら一緒の町か? 「じゃあ、俺の家と近所かもな」 そう言うとはまたしても目を丸くする。 「え、家は?」 「ああ。引き払ったんだ」 そうか。知らなくて当然だよな。 「何かあったの?」 『何か』は確かにあった。けど、説明するのも何だか難しくて、そんなことに今は時間を割きたくない。 「別に、これと言って何があったってわけじゃないけど。まあ、うん。あの家はもうないんだ」 何も追求しないでくれる彼女に感謝をしつつも話題を変えてみる。 「じゃあ、は明日時間あるか?」と聞けば彼女が頷く。 「誕生日プレゼント、買いに行こう。今度はもう少し優しい感じの時計」 俺の言葉には満面の笑みを浮かべて頷いた。 「明日は、遅刻しないでね」 見事なカウンターを食らった気分。 「ああ、勿論」 「待ち合わせは何処にしようか?」 「...の家に迎えに俺が行くよ」 「家、知らないでしょ?」 「今から送って帰るんだから、大丈夫だろ?」 そう言っての手を取る。久しぶりだから少しだけ、緊張しながら。 の手は柔らかくて、思いの外小さくて。そして、相変わらず繋いだ手から伝わる体温が心地良かった。 |
桜風
07.12.22
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