the beautiful




最近、私は家に帰るのが億劫になっていた。どうせまた、両親が喧嘩している。

だから、部活が終わっても遠回りをして帰ることにした。

いつもは通らない土手を歩いて帰る。

どこにでもある、そんな風景だったけど、こういうのんびりした空気も久々だから心地よかった。

ふと前方に人影が見えた。

その人を見て私は息を飲む。

彼は、『一人で何かと戦っている』、そんな凛とした姿で、強い瞳で、前を見据えて走っていた。

そう、彼は走っていただけ。

でも私にはその姿は衝撃的で、綺麗だと思った。

涙が、流れた。



俺が土手を走っていると、この近くの中学の制服を着た女の子が立っていた。

何の変哲もない、唯の女の子。でも、彼女を見て俺は驚いた。

彼女は泣いていた。その涙を拭うでもなく、ただ溢れるままに流していた。

「大丈夫か?」

いつもだったら、見ない振りをして無視をしていたかもしれない。

でも、彼女の姿は儚げで、頼りなくて、思わず声を掛けた。

彼女は我に返ったのか、制服の袖で涙を拭いた。

「ごめんなさい。」

「いや。」

彼女が落ち着くのを待って、

「こんな所で何で泣いていたんだよ。」

と聞いてみた。そんな俺に悲しそうな笑顔を浮かべた彼女が、

「貴方がとても綺麗だったから。」

と言う。

「は?」

何だかとんでもないのと会話している気がしてきた。



考えずに言葉を口にして後悔した。『綺麗』なんて男の子が言われて嬉しい言葉ではないだろうし、何より、初対面の人との会話でこれはないだろう。

私が慌てていると彼はため息を吐いて、

「あんた、名前は。」

と聞いてきたから、

。」

と答えた。

「苗字は。普通名前を聞かれたら苗字だろ?俺は、宮田。」

彼は眉を顰めて、ぶっきらぼうに言う。

「...苗字は、近々変わると思うから。」

たぶん、変わる。そして、転校もすることになるだろうな。

「...そうか。」

彼は意味を察したのか、静かに呟いた。

「うん、ごめんなさい。走っている途中に足止めさせちゃって。私、もう帰らないと。ありがとう、宮田君。」

「俺は何もしていないだろう。」

「ううん。足を止めて声を掛けてくれたし、泣き止むまで一緒にいてくれた。名前も教えてくれたよ.。

それに、何て言うか...宮田君の走っている姿見たら勇気が出た。ありがとうね。」

私は、彼を置いて家に向かって走り出した。

「頑張れよ、 !」

走りながら振り返り、彼に手を振って答えた。



彼女が去って行った後に、小さなぬいぐるみが落ちていた。

鞄にでも付けていたのだろうけど、紐が切れていた。

俺は、それを拾い上げた。また、彼女に会えるような気がする。

だが、彼女に会うことは無く春が来て、俺は高校に進学した。

入学して数日経ったある日、廊下ですれ違った女子生徒を見て俺は思わず彼女の手を掴んだ。

振り返った彼女は、

...」

「宮田君。...久し振り。そして二回目の初めまして。

です、よろしく。」

あの時のような悲しい笑顔ではなく、力強い笑顔で自己紹介をする。

「お前、あの時、ぬいぐるみ落としただろ。俺持ってるぜ、明日持ってくるよ。」

「そっか。あの子、宮田君が預かっててくれたんだ、ありがとう。」

「いや、何となくまた会う気がしていたから。改めて、俺は宮田一郎。よろしく。」

俺は右手を差し出した。彼女も右手を差し出し、握手をする。

「こちらこそ、よろしく。宮田君。」

彼女は綺麗な微笑を浮かべた。






頑張っている人の姿って綺麗だと思うのです。
そんなテーマ(?)で書こうと思った時、宮田になってしまいました。


桜風
04.5.1


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