小さな優しさ






  
 ぐぅぅぅー


お腹が鳴った。

そりゃもう、お腹になんか飼ってんじゃないかってくらい派手に。

彼も雑誌から顔を上げてこっちを見て、

「だから、もっと何か食べればって言うんです。」

と溜息交じりに言う。


今日の私の夕飯:桃缶1個(注:小さいやつ) 以上。


「もうお腹いっぱいなの!」

と主張したら再び私の腹の虫が音を奏でる。

...嫌がらせ?私の腹の虫サン。

「ったく。さんが俺の減量に付き合うことないだろ。ちゃんと食べろよ。」

説得力の無い私の言葉に呆れて彼がぶっきらぼうに言う。

それでも、

「今ダイエット中なの!女にだってね、男の人には分からない海よりも深ぁーい事情というものがあるのよ。」

と頑張って主張する。

「ああ、ソウデスカ。」

彼は再び雑誌に目を落とした。

うわっ、可愛くない。


彼は何と言うか、この体格で、あの体重まで落とさないといけないらしい。それこそ海よりも深ぁーい事情があって、今の階級で頑張っているんだと思う。


私は彼の力になる事ができない。

ボクシングのことなんて未だに、『最後まで立ってた方が勝ち』ということしか分からない。

食事にしたって、ご飯は作れるけどカロリー計算とかそんなことは出来ない。

だからこんな時は役立たず。

私が出来ることは彼と一緒に我慢をすること。

でもこれは自己満足。だから、彼に気付かれてはいけない。


とりあえず、空腹を忘れるためにもテレビを点けてそれに集中する。

それでもやっぱり私の頭の中からレアチーズケーキ、ラーメン、ピザetc.が離れてくれない。

ああ、もうっ。食い意地張ってんな、私。


さん。」

不意にすぐ傍で私を呼ぶ声がした。

「な、ん。」

「何?」と言おうとして口を開けたら、何か甘い物が入ってきた。

口の中でそれを転がしてみる。...飴?

彼を見ると笑っていた。

「腹は膨れませんけど、足しにはなるでしょ?」

彼の小さな優しさが嬉しい。

彼の優しさで私の胸はいっぱいになる。


私はそのまま彼に抱きついた。彼も私の背に腕を回す。

私は顔を上げて、

「一郎君、大好きだよ。」

と言うと、

「知ってますよ。」

と優しく微笑んだ彼が私の額に唇を落とした。



ヒロインが頭に浮かべた食べ物たちは私が書きながら食べたくなったものです。
そして、私は『デコちゅう』が好きです。
どうでもいいですが...


桜風
04.5.8


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