来年も





近場のそう大きくない神社で宮田とは待ち合わせをしていた。

本当なら、宮田はを迎えに行こうと思っていたのだが、挨拶回りがあり、それを伝えればは待ち合わせにしようと言い始めた。

それでも、と宮田は迎えに行くと言ったが

「けど、待ち合わせをしたほうが早く一郎に会えるよ」と言われてしまっては頷くしかない。

そんなわけで、神社での待ち合わせになったのだが。

思ったよりも挨拶回りが早く終わってしまい、待ち合わせ場所にも早く来てしまった。

少し時間を潰して来ようかとも思ったのだが、は時間よりも早く来ることが多く、待たせてしまうようになるかもしれない。

何より、彼女が早く来ればそれだけ長く一緒に居られるとか思ったのだ。


しかし、近場のそう大きくない神社と言ってもやはり今日は人がごった返している。

先ほどまでスーツを着ていたのだが、そう言った格好はあまり得意ではないし、何よりこんなに人の多いところに来て行くものではないと思っていつもどおりの格好をして鳥居の前に立っていた。

少し前まで暖かいと思っていたが、やはり思い出したかのように寒い日はやってきた。

今日もそんな寒い日で自分の吐く白い息を眺めながらを待っていた。

周囲には着物で着飾った女性も少なくない。

大変そうだな、と思いながらもあまり興味が無いため大してそれを目に留めることはなかった。

ちなみに、その女性たちの多くの目は宮田に向けられている。

適当にジャンパーとマフラーという正月に相応しいかと聞かれたら首を傾げてしまいそうな服装だが、本人の顔が整っているため、そんな格好でも目立ってしまう。

しかし、そういったことに全く興味と自覚の無い宮田は自身に向けられる視線には気付かず、ひたすらの姿はないかと周囲を見ていたのだった。



は約束の時間前に着く予定だったのだが、どうしてもそれが出来なかった。

今回、正月でしかも宮田と一緒に初詣ということから着物に挑戦をしようと思っていた。

しかし、あっけなくその計画は崩れ去った。

着付けをしてくれるといっていた従姉が風邪を引いて来れなくなったという。

美容院に予約を入れているわけでもない。

母に聞いてみると、出来なくもないが自信が無いという。人ごみにもまれると下手したら着崩れるかもしれないとか。

さすがに着崩れてしまったら自分が直せないため、それは危険だと仕方なく諦めたのだ。

だからせめて普段は中々しない気合の入ったおしゃれというものに挑戦してみた。

そして、時間ギリギリとなってしまい走って待ち合わせの神社に向かって足を止める。

遠くから見て宮田と分かった彼に手を振ろうと思ったが、一瞬それが止まった。

彼は綺麗な着物を着た女性たちの熱い眼差しをその身に受けていた。

宮田自身がそれを望んでいるわけではない。それは知っている。

だが、やはり面白くないというのは仕方ないことではないだろうか。

は一度深く息を吐いた。

怒っても仕方が無い。だから、心を鎮めるために深呼吸をする。

とりあえず気持ちを落ち着けてゆっくりと足を進めた。



の姿を見つけた宮田は「」と名前を呼んで軽く手を上げた。

周囲の宮田に熱心に視線を送っていた女性たちは「チッ!女連れか...」と言った感じで宮田への興味を失っていく。

そんな周囲の事は全く気にならない宮田も、の様子は物凄く気になった。

いつもと様子が違う。

様子というか、雰囲気が。

服装がそう思わせるのだろうが、とても大人っぽいし綺麗だと思った。

が、それ以上に戸惑いを覚えるのは彼女の表情だ。

何故か怒っている。

自分が何かしでかしただろうか、と少し悩んだ。

しかし、当然といえば当然だが答えは出ない。

この初詣の約束をしたそのときまでは物凄く機嫌が良かったはずだ。

そして、年が明けるまで彼女の機嫌を損ねそうな何かをした記憶が無い。

(年賀状が元旦に届かなかったことか...?や、でも...)

など、全く見当違いな事を考え始める始末。

足を進めながらそんな事を考えていたが、周囲に人がどんどん溢れてきた。

神社の入り口は複数あるが、本殿は1箇所しかない。人が集まってくるのは当たり前である。

後ろからやってくる人物にぶつかられてよろけるの手を取る。

は驚いて顔を上げた。

さっきから全く口を利かない宮田は怒っているのだろうと勝手に思っていた。理由は分からない。もしかしたら、自分が着物で来るのを当たり前に思っていて。でもそうではなかったので怒っているのかもしれないと思っていた。

だから、宮田のこの行動は予想外のもので。

そして更に驚いたことに宮田はその繋いだ手を自分の上着のポケットに仕舞いこんだのだ。

益々驚いて宮田を見上げた

「どうせなら、あったかい方が良いだろう?」

と言って視線を外す。

ちょっと照れくさい。

「うん、あったかい」

ポケットの中では宮田の手をぎゅっと握った。



本殿でお参りを済ませてお神酒を頂き、おみくじを引く。

は大吉で小躍りをしていた。

宮田は中吉。「ま、普通だな」と言いながらおみじくを神社が指定している箇所に結った。

戻るときも宮田はの手を自身の上着のポケットに突っ込む。

暫く歩いているとの足取りが少しだけ重くなる。

疲れたのかな、と思って見てみると何故かしょんぼりしていた。

「どうかしたか?」

「ごめんね、一郎」

声を掛けると突然の謝罪。来たときは怒っていたのに、今は何に落ち込んでいるのだろうか?

悩んでいるとが続ける。

「着物、着て来れなかったの」

周囲を改めて見る。確かに、着物を着た女性が多い。が、正直、そんなものは別にどうでもいい。

「別に、どっちでもいいんじゃねぇか」

宮田の言葉にが顔を上げる。宮田はから顔を背けた。

「俺は、がいればそれでいいよ」

ぽそりと呟く宮田の言葉に宮田を見上げたの目が大きく開く。

普段、宮田は全くと言って良いほどそういうのは口にしない。苦手なんだろうな、とか思っていた。

現に、今の宮田は鏡を渡したら、それを見た瞬間に割ってしまいそうなほど赤くなっている。

「それに、」と視線を外したまま宮田が続ける。

「来年もまた一緒に来たらいいだろう。そのとき、着物を着ればいい。来年がダメなら再来年。着物なんていつでも良いよ」

宮田がそんなことを言うものだからは俯いてしまった。

恥ずかしいからではない。嬉しくてにやけてしまうため、それを隠そうとしたらどうしても俯いてしまう。


『来年、再来年』と宮田は言った。

ここの神社はもしかしたら物凄くご利益があるのかもしれない。

「今年も、一郎と一緒にいられますように」

が先ほど本殿で手を合わせた願いごとのひとつがそれだったのだ。

勿論、本当にご利益があるかは来年になってみないとわからないことだが...

とりあえず、今年1年の目標は決まった。着付けが出来るようになること。

そうすれば、来年従姉が来れなくても自分で着付けて宮田と一緒に初詣に出られる。

一人頷くを見下ろしながら宮田は首を傾げる。よくわからないが、機嫌が直ったようだ。

今年も彼女に振り回されるのだろうな、と予想する。

「ま、嫌じゃないけど」

思わず口に出た言葉に苦笑した。

は「何か言った?」と聞いてくるが「いいや、何も」と返す。

うん、嫌じゃない。結構楽しい。

2人はゆっくり並んで神社を後にした。






正月早々メールで盛り上がったネタです。
このたび、夢小説にするに当たって秋月さんのメールにあったネタも盛り込ませていただきました。
秋月さん、ありがとうございました。



桜風
08.1.19


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