| 「さん、明日空いてる?」 宮田にそう声を掛けられて首を傾げながらは頷いた。 が首をかしげたのは宮田から声を掛けてきたからではなくて、その日だ。 明日は...正直、自分が誘おうと思ったのに。 もしかして、バレたかな、と思ってはみたものの、情報が漏れる要因が全くない。 ...まあ、いいや。 翌日は夏の名残がまだ残っていて日差しが強かった。しかし雲が少しずつ秋模様に変わってきていることは否定できない。風もさらりとしたものに変わってきている。 約束の時間にが駅前に行くと宮田が立っていた。 「一郎くん!」 ひらひらと手を振ると宮田も少し手を上げて応える。 少し気恥ずかしそうなその動作はなんだか可愛い。 「お待たせ!」 「いえ」という宮田は少しそわそわしている。 「で、どこにお付き合いしたらいいのかしら?」とが言うと「映画、なんですけど」という。 これまた珍しい、と思ったが顔には出さない。 だって、顔に出したら出したで目の前の宮田は物凄く後悔した表情を浮かべかねないから。 今日は宮田には心から楽しんでもらわなくては、とも密かに気合を入れていたのだ。 宮田の意外な一面を見た気がした。 そう思っていたが、もしかしたら無理をしていたのかもしれない。 しかし、だったらどうしてこの映画に自分を誘ったのだろう。 ふと、思い出した。 この映画の前作を自分は絶賛していたのだ。実際、その続きということもあって自分は楽しめたが、もしかしたら宮田は前作を見ていなかったのかもしれない。 だから、少しつまらなさそうなのか... しかし、だったら益々分からない。 その後も宮田は何となくが好きそうなコースでデートを続けた。 「あ、ねえ。こっち」 はある店の前で宮田の腕を引いてその店舗に足を向けた。 宮田は不思議そうにの行動を見守りながら引かれるままに一緒に店舗に足を踏み入れる。 「こんにちは」とが声を掛けた店員がを見て、その腕が絡まっている宮田を見上げた。 「あらあら、まあまあ」 「来てますか?」 「ええ、お約束どおり今日に間に合わせましたよ」 ウィンクをして店員がそういい、「少しお待ちくださいね」と奥へと向かった。 「あの、さん...」 「あ、わたしのお姉ちゃんのお友達なの」 聞きたいのはそういうことではない。 もそれは承知だが、今はまだ言いたくないのだ。 「はい、お待たせ」 そう言って彼女は持って来た箱を開けた。 そこには上質のジャケットが入っていた。 「一郎くん、ちょっと羽織ってみて」 言われるままに羽織ってみた。 「わー、ちゃん。さすがねぇ」 そういいながら彼女は袖や裾の丈を見ていた。 「うん、ちょうどいいんじゃない?カレシさん、どう?」 『カレシさん』といわれて少し照れながら、「ええ、まあ...」と曖昧に答えた。 「じゃ、それ。お願いします」 とが言うと「かしこまりました」と店員っぽく彼女は返して宮田からジャケットを受け取る。 「あの、さん?」 「あのね、一郎くん。貴方はそのスジでは有名人なのよ?」 どういうことだろう。 支払いを済ませたそれを受け取ったは店舗の外へ出ると宮田にそれを渡した。 「誕生日、おめでとう」 「え..と。ありがとう」 混乱した様子で宮田は応えるが、「何で、知ってたんですか?」とに問う。 「さっき言ったでしょ?『そのスジでは有名人』って」 確かに、聞いたが... はそのままちょっと先にある本屋を指差した。 とりあえずそこに行くという話なのだろう。 宮田も頷いてそこへと足を向ける。 は迷うことなくスポーツ雑誌の置いてある棚に行き、雑誌を手に取った。 パラパラと捲り、あるページで手を止める。 「生年月日書いてあるんだもん」 言われて見てみると、確かに書いてある。 「...って」と驚いて宮田はを見た。 宮田の疑問を受けてはウィンクをした。「つまりは、そういうこと」というように。 なるほど、と宮田も納得して雑誌を棚に戻した。 「けど、こんなにいいもの貰っていいのかな?」 「今更返さないでよ?」 はいたずらっぽく笑いながらそういう。 たしかに、返せないし返したいとも思わない。 「今度試合があるときにでも着てよ。ほら、記者会見とかあるんでしょ?」 が言うと宮田は「OK」と頷く。 「勝負服!」と言っては笑う。 「ところで、さん」と宮田が話しを変えた。 「なあに?」 「そのワンピース、可愛いですね」 精一杯頑張った。 しかし、から返ってきた言葉は 「あら?可愛いのはワンピース?」 という返答のハードルをかなりあげる一言だった。 他の人ならともかく、自分はそういうの苦手なのに... そう思ったが、 「もちろん、さんが、です」 と頑張ってみた。 するとは満足したように笑った。 「ありがとう。これ、こう見えても勝負服」 そう言ってくるりと回るとスカートがふわりと浮かんだ。 一瞬眩しくて目を背けそうになった宮田だったが、慌てて手を伸ばす。 「えへへ、慣れてないから」と頭を掻きながらが言う。 くるりと回るまではうまく行ったのだが、その後グキッと少し離れて立っていた宮田にまで聞こえる音が彼女の足首からしたのだ。少しヒールの高いサンダルを履いていたからその負荷も大きかったのかもしれない。 「捻った?..よな」 「たぶん...ごめんなさい」 小さくなるに苦笑して宮田は屈んで背を向ける。 「ほら」という宮田に心底申し訳なさそうに「お手数をおかけします」とは言って負ぶさる。 「ねえ、一郎くん」 いつもよりも近くで聞こえるの声が新鮮だ。 「何ですか?」 「またデートに誘ってくれる?」 「さんさえ良ければ」 宮田の返答を聞いては宮田にぎゅっと抱きつく。 「おめでとう」と呟くに「ありがとう」と返した。 |
桜風
09.8.6執筆
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