| 「ちょっと!何掛けてんのよ?!」 「醤油」 「『醤油』じゃないわよ!!目玉焼きにはソースでしょ?!」 「そんな気持ちの悪いもの食えるかよ!俺は子供のときから醤油だ!!」 一緒に住み始めてからほぼ毎日のこととはいえ、良くもまあネタが尽きない。 今日もそんなことで一郎とケンカした。 この間は...スイカに塩を掛けるかどうかだったような気がする。 ...何で、食べ物のことでなんだろう? もう少しロマンスのあるケンカをしてみたいものだ。 ところで、『ロマンスのあるケンカ』ってどんなのだろ? 一郎とこんなくだらない言いあいをした日はやっぱりヘコんでしまう。 内容が内容なだけに特に、気分が重い。 そんな日は何もヤル気が起きない。 元気だけが取り柄だと思われているらしい私の元気がないと皆の調子が狂うと職場で言われたりするけど、そんなこと言われても困ってしまうのが正直なところ。 2年前に一郎と初めて出会ったときは、今でも忘れない。 彼の周りの空気は凛としていて、そして、時間が止まっている様な錯覚を覚えた。 付き合うとかそんなのはなくて、一緒に出かけたりした。 去年、ある一郎の試合が終わったとき、鍵を渡された。 それは、今住んでいるアパートのもの。 そのときは嬉しくて柄にもなく泣いてしまった。 私が泣くなんて思ってなかったようで、一郎は目いっぱい慌ててた。 でも、嬉し泣きだと分かったときには、優しく抱きしめてくれた。 そして、実は今日があの鍵を渡された日。つまり一周年と言うわけで。 でも、一郎ってこういうのに疎そうだから期待はしてないけど、私自身は何かしたい。 そうは言っても一郎が忘れているのに私が大仰なことをしたらさすがに気が付いてそして、気を遣うかもしれない。 だから気付かれない程度のお祝い。 ああ見えて、一郎はハンバーグが好きだったりする。 お肉はカロリーが高いからあまり食べない。 でも、最近はイイモノがある。畑のお肉と言われる大豆が原料の豆腐で作ったハンバーグ! 豆腐ハンバーグを発明した人に是非ともお礼を言いたい。 というわけで、今日は豆腐ハンバーグ。 仕事を定時で済ませて急いで家に帰る。 一郎がジムから帰ってくる時間に合わせて夕飯を作り、そして、家の鍵が開く音がした。 今日は少し遅いけど、一郎が帰ってきたようだ。 玄関へ彼を出迎えに行くと 「ほら、」 そう言って大きな花束を私に向かってぶっきらぼうに差し出してくる。 「どうしたの、こんなに大きな花束。...ファンの子から?」 「違うよ、俺が買ってきたんだよ。今日で、1年だろ?」 そっぽを向いて、少し紅くなりながら一郎が呟いた。 「うん!」 私は嬉しくて思わず一郎に抱きついた。 「おい、花が潰れるだろ?」 そう言いながら苦笑して私を優しく抱きしめてくれた。 1年前と全然変わらない温かさ。 「今日は、豆腐ハンバーグだよ」 「それは楽しみだな。花、何とかしてやってくれ」 「OK.ちょっと待っててね。すぐにできるから」 今日はとても素敵な記念日になった。 だから、少しくらいケンカを減らしていきたいと心に誓う。 「...ちょっと、何掛けてるの?!」 「ケチャップ」 「『ケチャップ』、じゃないわよ!言ったでしょ、これは豆腐ハンバーグだって!豆腐よ、豆腐。だったら醤油でしょ?!」 「醤油?そんな気持ちの悪いもの食えるかよ!ハンバーグにはケチャップだ!!」 ...またやってしまった。 でも、これが私たちなりのコミュニケーション! って、これはちょっと苦しい言い訳かな...? |
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