| いつものロードに出てたら、いつの間にか桜が満開だった。 毎年この時期は鷹村さん主催のよく分からん花見に誘われて、断っても無理矢理連れて行かれていた事を思い出す。 何だか上機嫌になった鷹村さんは桜の、とても立派に花の付いた枝を良く折っていた。 それを見ながら木村さんは、 「桜折るバカ...」 と呟いていた。 「何ですか、それ鷹村さんが馬鹿なのは知ってますけど...」 「桜ってのは、枝を折っちゃいけないんだよ。桜の枝を折ると枯れるからな。てか、宮田。お前も中々言うよな...」 初めて知ったそのことに感心する。 ホント、何でこの人はボクサーをしてるんだろう。 本気で思った。 ふと、川土手の桜の木の下で女の子が桜を見上げて手を伸ばして時たま跳ねていたのが目に入った。 柳に蛙? この言葉なら聞いたことがあるけど。 ちょっと足を止めてみてるとその子は何度も跳ねては尻餅をついてた。 「何やってるんだよ」 気になって声を掛けてみると、その子は泣きそうな顔をしながら振り返った。 ...マズイ。 声を掛けたコトを非常に後悔しつつも、その子に近づく。 だって、声を掛けたのに無視をするのもどうかと思うし。 「お花が欲しいの」 そう言って桜を指した。 「花?って、桜が欲しいのか?」 「そう、このお花が欲しいの」 「いやでも。この花は折ったらダメになるらしいぜ?」 「やーん!欲しいの!!」 苦手極まりない。 子供のワガママってのを間近に見ると眉間に皺が寄ってしまう。 「お兄ちゃん、怖いお顔」 憮然としてその子は俺に訴えた。 悪かったな、自前だよ。 「でも、折ったらこの桜、枯れるぞ?」 「それもヤ!でも、欲しいの!!」 困った。正直困った... 途方に暮れていると、さぁ、と風がはしる。 その風によっていくつかの桜が舞ってきた。 きれいに花弁の付いたものが目に入って、思わずそれに手を伸ばす。 柔らかく掴んだそれは、ちゃんと桜の形をしていた。 「これじゃ、ダメか?」 「わぁ!ありがとう。とても綺麗!!」 そう言って俺の手からそっとその桜を受け取り、大事そうに両手で包む。 「それで、良いのか?」 「うん、とても綺麗。いつも高いところにあってお花が見えなかったから」 なるほど。 「じゃあ、これならどうだ?」 その子を抱えて少しでも桜に近づけてやる。 「わぁ!凄い!!綺麗!!!ありがとう、お兄ちゃん!!」 そう言って振り返ったこの子はとても嬉しそうに笑っていた。 「まあ、枝は折ってやれないけど。これくらいなら、な」 「達也お兄ちゃんに頼んでもいつも忙しいって言って見せてくれないんだもん!」 ...『達也』お兄ちゃん?? どこかで聞いた事のある名前だ。 「あれ??って、宮田、に何やってるんだ!!」 「...?」 「うん、私の名前。お兄ちゃーん!」 土手の上からそれはそれは勢い良く走ってくる木村さん。それに応えるように手を振る。 つまり、木村さんが『達也お兄ちゃん』、だろうな... 「お前、に何やってるんだ!!」 「え、木村さんって一人っ子じゃ...隠し子?」 「は俺の可愛い従妹だ。お前は、に何やってるんだ!?」 凄い形相で睨まれた。 「え、いや。この子が...」 こんな木村さん、試合でも見たこと無い。 「このお兄ちゃん、私にプロポーズしたの」 待て!何だそれは!! 「何だとー!宮田!!いい度胸だな!!」 いよいよ木村さんがやばくなってきた。 を降ろして後ずさる。 「ちょ、木村さん。そんな、俺がこんな小さい子に...」 「何だと!は可愛いじゃないか!!違うか?!」 「いや、可愛いかもしれませんけど...じゃあ、木村さんがに桜を見せてあげればよかったじゃないですか!!」 何を言ってももう耳に入りそうもない木村さんからダッシュで逃げている途中、俺は目を疑った。 鷹村さんと青木さん。2人が親指をグッと立ててに合図している。 はでピースサインをして応えてる。 え...?俺嵌められた?? 体力勝負で何とか俺が逃げ切ったけど、流石にかなり堪えた。 息を整えているとがとてとてと近付いてくる。 また何かされるのかと思わず身構えると、 「宮田お兄ちゃん、桜ありがとう。ほんとに嬉しかったんだよ」 そう言っては俺の頬に唇を当てて走っていった。 「何だ、可愛いトコあるじゃん」 そんな俺に悪寒が走る。 それは、間違いなく殺気。 振り返るとそこにはさっきまで屍だった木村さん。 今はゾンビのように立ち上がっている。 「き、木村さん?」 「に『ほっぺにチュウ』されていい気になるなよ、宮田ぁ!!」 第2ラウンドが始まったのは言うまでもない... |