夏祭り







バイト先のコンビニに『第○回町内夏祭り』と大きく印刷されているポスターが貼ってあった。

あー、もうそんな時季か...

ぼんやりとそんなコトを思いながらバイトをするべく店内に入っていく。

ふと、シフト表を見て頬が緩んだ。

そういえば、今日は一緒だった。


服を着替えて店内に出るところで出勤してきた彼女と会う。

「おはよ、宮田くん」

「ああ。ギリギリだな、さん」

「ごめん〜!着替えてくる!!」

手を合わせてすまなさそうな表情をした後、彼女は走って奥へと向かった。

少しして服を着替えて髪を纏めたさんが出てきた。

「セーフ?」

イタズラっぽく笑う彼女に

「ってことでいいよ」

と、返しておいた。

「あ、そういえば、宮田くん」

「なに?」

商品を並べていると、彼女が声を掛けてきた。

店内には客が一人もいない。

「入り口のポスター見た?」

「ああ、夏祭りだろ?見たよ」

「ここって夏祭りなるものをやる町内なんだね。お金持ちだ...」

「いや、神社近いしな。昔からやってるよ」

今年、大学進学のために上京してきたさんには初めての祭りとなる。

俺の答えに彼女は「ほほう、」と興味を示していた。

「行く?」

深く考えずに言葉が出てきていた。

「お?行く!!」

驚いた表情のままさんが返事をした。

その表情があまりにも可笑しくて思わず噴出したら怒られた。


夏祭りの当日。

勿論、俺とさんはバイトがなく、まだ暗くないうちから待ち合わせた。

時間よりも早めに待ち合わせ場所に着いたけど、まださんがいる様子がない。

まあ、まだ早いし、と納得して待っても中々現れない。

時間を間違ったかな、とか、場所は合ってるよな、とかそんなコトを考えているうちに段々落ち着かなくなってきた。

少し周りを見て回ろうと足を動かしたら目の前に立っている浴衣の女の人に「コラッ!」と声を掛けられた。

少し巻き舌で凄みがある「コラッ!」だった。

彼女を見てみると、

さん?!」

「どれくらいの時間気付かないつもりで居るのよ!!」

目の前の浴衣を着ていた女性はさんだった。

「いや、ごめん。浴衣で来てるとか思わなかったから...」

「ったく。苦労して着付けたんだぞ、これ」

そう言ってそっぽを向くさん。

俺にとってはそれがとても嬉しいことで、だから余計に頬が緩んでしまって

「笑うな!」

さんに叩かれる原因となってしまった。

意外といい動きをする人だ。

「いや、ごめんって。...その、浴衣。似合ってますよ」

「何で突然敬語なの?変なのー」

そう言って彼女は少し満足げに笑った。

見慣れない彼女の姿に何だか調子が狂う。

取り敢えず、いつもと変わらない俺で居ようと心掛けて話したりしたけど、案外難しいもので

「ねえ、どうかした?」

さんに不審がられる。

「や、何でもない」

「そ?ねえ、あれ食べようよ!」

そう言って屋台に駆けて行く彼女の後をゆっくり追った。


いつの間にか俺の手にはたこ焼き、りんご飴、焼きソバに綿菓子と食べ物ばかりが増えて行く。

勿論、俺は食べるつもりはなく、つまりは全て彼女の胃袋に収まる予定のものだ。


「良く食べるな」

「だって、お祭りだよ?宮田くん、ホントに食べないの?」

「ああ、いらないよ」

俺の返事を聞いてさんが「ふーん」とつまらなさそうに呟いた。

まずいな、と思って話を変える。

さんって大学に進学で上京してきたんだよな。浴衣なんて持ってきてたんだ?」

「違う」

何が違うのか分からない。

取り敢えず黙って彼女の言葉の続きを待った。

「お母さんに送ってもらったの」

「そうなんだ?」

なるほどって思って足を進めていると、Tシャツの裾を掴まれて足を止めた。

「どうかした?」

「宮田くんに見てほしかったから、浴衣、お母さんに送ってもらったんだよ」

一瞬彼女が何を言っているのか理解できなかった。ただ、自分の心臓の鼓動が大きく耳に響く。

そして、俺の解釈で合っているのか不安になりつつも、今、最も適当であるはずの言葉を探した。

でも、元々余り話す性質でない俺にそんなものが咄嗟に見つかるはずもなく、気まずい空気が漂い始めた。

「なーんて、言ったらどうする?」

さんの明るい声がした。

何だ、冗談かと思ってがっかりして、胸に痛みを抱えて彼女の表情を見た。

再び胸が締め付けられるような感覚に陥った。

さんは目に涙を溜めてとても痛そうな顔をして無理矢理笑っていた。

「俺は、さんの浴衣姿。嬉しかったよ」

とにかく、何かどうにかして俺の気持ちを伝えないと。今伝えないとこの先も絶対にこのままだ、寧ろ何かが壊れてしまう。

「へ?」

「俺は、さんが好きだから。俺のために浴衣を態々実家から送ってもらったって聞いて凄く、嬉しかったよ。って、答えるかな?」

ああ、どうか...

知り合いに会いませんように。

今の自分の表情なんて簡単に想像できるし、それは誰にも見られたくないものだ。

「そっか」

さんは満面の笑みで俺を見上げてきた。

「そうデス」

「そっか、そっか」

「うん。だから、手」

そう言って手を差し出した。

さんは少しためらいがちに俺の差し出した手に自分の手を重ねてきた。

その手をぎゅっと握りしめてゆっくりと歩き始めた。

それに応えるように彼女も手を握り返してきて俺の隣を歩く。

「来年は、宮田くんも浴衣ね?」

「ウチにあるのかな?探してみるよ。まあ、さんは来年も浴衣姿を見させてくれよな?」

「はいはーい」

楽しそうに返事をする彼女に何だか嬉しくなった。

やはり、さんはこうでないと。


その後も彼女は胃袋の納めるものを買いまくって、俺の手にはそれらが増えていった。





キリ番50000hitを踏まれました『白昼夢』の秋月さんへ捧げる一歩夢
リクエスト内容が、
『一郎さんで『浴衣で夏祭りデート』
二人は友達以上恋人未満の関係で、このデートでついに告白…な流れで』
でしたが...

何だ、この一郎?!
妙に余裕じゃないか??
何だか落ち着かない...

えーと、秋月さん。宜しければお受け取りください!!
リクエスト、ありがとうございました!!


桜風
06.7.9
06.7.16掲載



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