Key to your heart





俺が家に帰ると俺の家の前に見慣れた人物が居た。

「オイ、コラ」

声を掛けるとそいつは振り返ってにこりと微笑む。

「おかえり」

「お前は何をやってるんだ?」

片膝をついて俺の家のドアの取っ手に何かを挿していた。何となく予想がついている。

「...ピッキング?」

「それは犯罪だ!」

どんなに可愛らしく首を傾げても犯罪は犯罪だ。

「ちえー」と呟きながら立ち上がり、膝を払う。

「何やってるんだ、全く。いつからそんな特技を持ったんだよ」

「いや、今その才能が目覚めないかな、と。ていうか、一郎が部屋の鍵を開けておいてくれないのが悪いんでしょ!」

絶対に俺は悪くない...

寧ろ、そんな才能開花させようとするな。


バッグから鍵を取り出してドアを開ける。

「で、何しに来たんだ?」

入るように促すまでもなく、は当たり前のように玄関で靴を脱ぐ。

「これ、返しに来た」

そう言って鞄から本を2冊取り出してテーブルの上に置く。

「ああ、もう読んだのか」

2週間前に俺の部屋から持って帰った文庫本。文庫本と言っても古典作品だから意外と読むのに時間が掛かりそうだと思ったんだけど...

「コーヒー淹れていい?」

「俺も飲む」

そう声を掛けると「おっけー」と返事をしながらはコンロにやかんを置いてガスをつける。


カチャカチャと食器の音が家の中に響く。

そういえば、は次はどれを読むだろうか?

少なくもないけど、多くもない俺の部屋の本棚の中身。

このペースでいくとあっという間に貸す本がなくなってしまいそうだ。

一瞬、買い足そうかとか思ってしまった。

「ねえ、一郎」

「あ..?何だ?」

「ボクシングやってると耳まで遠くなるのねぇ...」

仕方ないなぁ、と言った感じにが言う。もしかしたら、さっきから呼ばれていたのかもしれない。

「うるさい。で、何だ?」

「ああ、クリープがない」

「そりゃ、俺の家だからな」

そういえば、ってコーヒー飲まないんじゃ...?

『あんな苦い液体、どこがいいのか私にはさっぱりわかんないね!』と宣言していたのを思い出した。

そうだよ、は専ら紅茶派だ。

だから、ウチには安いので悪いけど、紅茶のティーパックがある。

紅茶はストレートでいけるそうだから、クリープなんぞウチには置いてない。

「買って来ようか?」

聞いてみると

「あ、いいよ。私行く」

と自分の鞄に手を掛けながら言う。

「鍵、開けといてよ」

笑いながらそんなことを言う。

だから、

「持ってけ」

俺はすぐ側に置いていた鍵を投げた。

上手にキャッチしたは「行ってきます!」と鍵を軽く振って出ていった。


ふと、サイドボードの引き出しを開ける。

もうひとつの鍵が色んなものに埋もれていた。

普段は使わないから適当にこの引き出しの中で眠っている。

そういえば、何処かの引き出しにがリボンを入れていた。俺がファンから貰ったプレゼントについていたのとか、は捨てずに置いている。

『主婦の鑑だ』とか自分で言っていた。主婦じゃないだろう、まだ。

何となく薄い記憶を辿ると色とりどりのリボンが入っている。

どうでも良いけど、多すぎないか?今度に聞いて捨ててしまおう。

それはともかく、適当にリボンを選んでその鍵につけた。


暫くするとが帰ってくる。

近所のコンビニの袋を提げてるけど、どう見てもクリープだけじゃない。

「何買ったんだ?」

「色々」

まあ、それは見れば分かる。

そんなに気になることでもないから、深くは追求しなかった。

は再び湯を沸かす。今度こそ、コーヒーを飲むつもりなんだ。

「なあ。コーヒー、嫌いじゃなかったか?」

「まあ。私もいい加減大人の階段を上ろうかなーって」

「何だそりゃ」、と呟くと「複雑なオトメゴコロってこと!」と笑いながら言う。

『オトメ』ねえ?寧ろ、『複雑』っての方に引っ掛かったけど、言うとうるさいから黙っておこう。

「ああ、鍵。ありがとう」

そう言いながらは鞄から鍵を出す。

それを右手で受けとりながら俺は左手の中にあるもうひとつの鍵をその手に渡す。

「おりょ?」と言いながらはそのリボンをつけた鍵をまじまじと見る。

「やるよ」

そう言うと目を大きくして声もなく驚く。

「だから、変な才能を開花させようとか思うなよ」

笑いながらそう言うと

「え、これって夜這いに来いって話?」

と返された。

だから、

「出来るもんならしてみろよ」

と返す。

はグッと言葉に詰まり、

「し、知らないからね!後悔するよ!!」

そう言いながら鳴き始めたやかんの火を止めに走る。


まあ、少なくとも俺は後悔しないな...


此処から見ても真っ赤だと分かるを見ながらそう思った。










秋月さんからキリ番『99999』のリクエスト。
リクエスト内容が
『友達以上恋人未満のヒロインが一人暮らしの一郎さん宅に(アポなしで)遊びに行く』
でした。
ギャグにも甘にもならなかったデス...

秋月さん、リクエストありがとうございました!!


桜風
07.5.26(進呈)
07.6.19(掲載)



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