| 新しい傘を買った。 これから梅雨、って時に何となく、青い傘がほしくて。 これを差していれば雨が降っても青い空ってな感じだ。 わたしは雨が嫌いと言うわけではない。けど、青空も好き。つまりは、欲張りなのだ。 梅雨に入ってその青空傘が大活躍。 パラパラと音を立てて雨粒を弾く。あ、この音も好きかも。 思わず上機嫌にくるりと傘を回す。 遠心力によって出来た飛沫。 「あ、」 思わず声が漏れる。 気付かなかったけど、誰かが後ろから走って来てたんだ。 「ごめんなさい!」 彼は顔についた雨粒を軽く拭く。 「いえ」 そう一言言って去っていった。 淡々と、淡々と足を動かして前に進んでいく。 しかし、さっき見た彼の顔、どっかで見たことがあるような... ウィンドブレーカーのフードを被っていたから顔ははっきり見えなかった。 けど。 うーん... 数日後、バイトのシフトを確認する。 『宮田一郎』? わたしはこのコンビニのバイト歴は浅い。なんと言っても今年の4月からだ。 だけど、4月からってことは約2ヶ月はここにいるんだけど、この『宮田一郎』さんとは初めてで。 でも、噂には聞いてるし、1回見たことがあるはずだ。しっかり覚えてないけど... カッコいいけど、無口で無愛想。一緒にいて息が詰まる。実に惜しい逸材だ。 そんな感じの評価を女の人から聞いた。 何がどう『実に惜しい』のかは分からない。 しかし、一緒にいて息が詰まるってのは結構失礼だよね。 3日後、わたしは宮田一郎と顔を合わせる。 「こんにちはー」 裏から入ると、そこには見慣れない人が立っていた。 目つきの悪い。あ、もしかしてこの人が実に惜しい宮田一郎さんか? 「こんにちは」ともう一度挨拶をすると。 「ああ、こんにちは」 と愛想がない返事があった。 間違いなく宮田一郎さんだと確信した。 腕時計を見てちょっと慌てる。 「それ」 へ?着替えようと思ったのに突然の『それ』に思わず足を止める。 「傘」 「あ、はい。天気予報では今日は梅雨の晴れ間とか言ってましたけど、好きだから」 「青空の色ですね」 宮田さんはいい人!! わたしの傘を『青空』と言った!! 「はい!」 嬉しくて勢いよく頷くと宮田さんは少しだけ笑う。ほんの少しだけ。 「けど、あまり傘を回さないほうがいいですよ。危ないですから」 「へ?」 意味深に笑って宮田さんは店内に出て行った。 え、あれ?何で?? そりゃこの間知らない人に水掛けちゃったけど。けど... あ、そうだったんだ。 今思い出した。あの一言『いえ』って言ったあの人。 慌てて宮田さんの後を追おうとして回れ右。 そういえば、わたし準備出来てない... コンビニの制服を着て改めて店内に出た。 今の時間はお客さんが意外と少ない。 「あの、この間」 宮田さんに声を掛けるとゆっくり振り返る。 「傘の水、掛けてしまってごめんなさい」 宮田さんは少し驚いたように眉を上げて 「いえ。俺もボケっとしてたから」 と答える。 「あの傘の、青がちょっと気に入ってて。ボーっと見てたらその青がくるっと回って水が飛んできただけだから」 そう言う。 「いい色の傘ですよね、えっとさん?」 何で名前を!? そう思ったけどわたしの胸にはちゃんと名札がある。 何だ。じゃあ、宮田さんも名札見て確認すれば良かったんじゃん。 一応、念のため、目の前の宮田さんの名札を見ると『宮田』ってある。間違いない。 「宮田さんは、よくあそこを走ってるんですか?」 何のスポーツをしてるのだろう?走るのが趣味とか...? 「まあ、結構あそこはロードコースにしてますね」 ロード...? 「わたしもときどきあそこは遠回りをしたいときに歩くんです」 「じゃあ、またさんと会うかもしれませんね」 そっか、また会えるんだ。 同じとこでバイトをしてるのに何故かそんなことを思った。 今度は、あの傘と同じ青空の下で話をしてみたいな。ゆっくり、のんびりと。 |
2周年おめでとうございますで『白昼夢』の秋月さんへ。
桜風
07.6.27(進呈)
07.7.8(掲載)
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