A fateful encounter






「一郎!待ってよ一郎!!」

ロードのコースである公園の中で名前を呼ばれた気がして振り返る。

たが、俺のことを名前で呼ぶ女の知り合いなんて居ないから、俺のことではないだろうけど。

見ると白い大型犬が嬉しそうにこちらに向かって爆走してきており、後ろには「一郎」と叫びながら走ってくる女の人が居た。

察するに、この嬉しそうに爆走してきている白い大型犬が『一郎』。

彼女はこけてしまい、それでも「一郎、待って!」と叫んで止まるように言っていた。

そのバカ犬が俺の横を走りぬけたため、引きずっているリードを踏んで止まらせた。

彼女は足を引きずりながらこちらに向かってくる。

「ごめんなさい、ありがとう」

取り敢えず踏んづけたリードを持って待っているとやっと追いついた彼女が手を出す。

「いえ」と返事をしてリードを彼女に返した。

彼女の手に渡った途端、またこのバカ犬が爆走し始め、彼女を引きずるため、俺は彼女の手にしているリードを持って引っ張った。

「取り敢えず、膝の手当てしましょう」

見てみると中々派手にこけた彼女の膝からは血が流れていた。

ベンチに付き添って彼女を座らせる。


「ごめんなさい、ご迷惑をお掛けして」

「いえ。ティッシュか何か持ってませんか?」

彼女に声を掛けると鞄の中からポケットティッシュを取り出す。

「水で濡らしてきます」

彼女に声を掛けて彼女にリードを預けたらまたどこかに引きずられていくのではないかと思われるため、俺がそのままリードを持って動く事にした。

時計を見てみる。

少し遅くなるかもしれないが、まあ放っては置けない。

相変わらずだと自分で呆れる。

しかし、性分だから仕方ないと諦めながら公園の中の水道でティッシュを濡らした。

「取り敢えず、これで傷口洗っておいてください」

そう言って彼女に濡らしたティッシュを渡して近くのコンビニに向かう。

絆創膏とできれば消毒液とガーゼ。

バカ犬と伴ってコンビニへと向かい、適当に支柱にくくりつけて店内に入った。

当初の目的の、擦り傷の治療道具一式と取り敢えず、あのバカ犬に振り回されたようだから喉も渇いているだろうと思って適当にスポーツドリンクを手にして店を後にした。


公園に戻ると彼女はベンチに座って俯いていた。

「大丈夫ですか」

と声を掛けると彼女はバッと顔を上げて立ち上がる。

「あ、ごめんなさい」

勢いよく頭を下げる彼女に思わず苦笑が漏れる。

「良いですよ。これ、消毒液とか。あと、喉渇いてませんか?」

そう言ってさっきコンビニで購入した一式を渡す。

「わ、ごめんなさい。ありがとうございます。おいくらでしたか」

と彼女は慌てて自分の鞄を漁り始めた。

「ああ、いいですよ。レシート貰ってないんで覚えてないし」

と返すと彼女は益々申し訳無さそうに頭を下げた。

だから、話題を変えるために

「この犬。一郎って言うんですか?大抵犬の名前っていったら『タロウ』とかそんなイメージですけど」

ともういい加減分かっていてもおかしくないことを聞いてみた。

「ええ。私も『イチロウ』って聞いたときにはちょっとビックリしちゃいましたけど。この子、友達の犬なんです。友達が旅行に出るからって預かったんです」

それは災難だったな、と心の中で合掌してしまう。

体格から見ても彼女にはこの大型犬の制御なんて出来ないだろう。

元々自分の家で飼っているのだったら躾でどうとでもできたかもしれないが。

「あ、あの。お名前伺ってもいいですか?」

彼女に言われてやっと気付く。お互い名乗っていない。

「宮田です」

今、此処で『一郎』は言いたくない...

「宮田さん、ですね?」

そう言って彼女は「宮田さん」と何度か繰り返していた。

「俺の方も、聞いて良いですか?」

取り敢えず、聞き返すものだろうと思って聞いてみると彼女は

「川原です。川原

「川原さんですね」

彼女に確認すると頷いてへへ、と笑う。

何がそんなに可笑しいのだろう?と思ったがまあ、いいかと流す。


それから遠くない未来。

俺は彼女と再会する。

そして、彼女は俺のことを「一郎くん」と呼び、俺は彼女を「さん」と呼ぶようになる。

彼女と出会うきっかけになったあのバカ犬はその後も時々やってくる。

そのときは、俺がリードを持っ走り、彼女は自転車に乗ってそれについてくる。中々良い練習メニューだと最近は思うようになった。







1周年おめでとうございますで『slow.』のみず子さんへ


桜風
07.9.2(進呈)
07.9.23(掲載)


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