| 桃色なクセに物凄く勢いと言うか、殺気と言うか。そんな空気が充満している百貨店の地下1階。 は呆然としていた。 何、この戦場... 「じゃ、行ってくる!!」と宣言してその戦場に突入した友人をそのフロアの隅っこで待っていたは「はぁ...」と深く息を吐く。 何か、この空気は息苦しい。 「女って怖いねぇ...」 自分の性別は棚に上げてそんなことを思った。 暫くして少し制服が着崩れた友人が戻ってくる。髪を振り乱したのか、髪留めもだらしなくずれている。 コートを預かっておいて良かった、と何となく思った。 「買えた?」 「ばっちり!あれ?は買わなかったの?」 荷物が何ひとつ増えていないの手元を見て友人が言う。 「ムリよ」と笑う。 何が無理かは敢えて言わない。 此処でチョコを購入することか、それとも... 友人と別れて独り家路につく。 吐く息が白く、それを見るのは好きだった。 ぽん、と肩を叩かれて驚いて振り返る。そこには幼馴染が立っていた。 「なんだ、一郎か」とが声を漏らすと「なんだって何だよ」と少し不満げな声が返ってくる。 「変態さんかと...」 「じゃあ、『なんだ』でいいや」と言って宮田は笑う。 「バイト?」 「いや、練習」 「これから?」と聞くと彼は頷いた。 「精が出ますねぇ」 の言葉に宮田は苦笑し、「ババくせぇ」と言った。 「失敬な!」とが怒ったフリをすると宮田は笑って「こえぇ」と呟き駆け出す。 「変態さんに気をつけろよ」 その宮田の一言には肩を竦めてまた独り家に向かう。 途中、コンビニがある。 何となくそこに足を踏み入れた。 コンビニ業界もバレンタインフェア実施中のようで、レジ前の一角はチョコレートらしきものが所狭しと陳列してあった。 はその前で足を止めたがどうもしっくり来ずにそのまま菓子コーナーへと向かう。 最近食べていないなぁ、と懐かしみながら菓子を物色し、ふと手に取った。 「これ...」 これにしよう、とふと閃く。 自分が食べる用と、それ以外のもの。 一緒くたに購入して上機嫌で帰宅した。 自室に入ってコンビニで購入したあれやこれやを取りあえず学習机の上に広げた。 やはりこれだろう。 本人は確かあまり甘いものを食べないように心がけていると聞いた。 それは彼にとって必要なことだから。 それはにも分かっていることで、いつもならこんなことはしない。 しないが、それでも何と言うか、菓子メーカーに踊らされても良いのではなかろうか。 たまには、だし。 そんな風に自分にいい訳じみたことを言い聞かせて机の引き出しを開けた。 中から大きめの付箋を取り出す。 普通に渡しても面白くない。 だから、と。 ペンで大きく『義理!』と書いた。 書かずもがなだが、ここは一応念を押しておこう。 何に言い訳をしているのだか... ふと我に返ってそう思ったが、深くは突っ込まないでおいた。 しかし、『義理』だけだとこのひとつしかもらえなかったとき、かなり悲しいのではないかと、変な風に気を利かせて裏にも文字を書く。 「よし!」 夕食を済ませて時計を見る。 さすがにもう帰ってるだろう。 家族に近所に行くと告げて家を出た。 とっぷり日が暮れるとやはり寒い。 少し急ぎ足で近所にある幼馴染の家に向かった。 インターホンを押すと彼の父親が出てくる。 名乗ると家の外からでも聞こえる声で息子を呼ぶ彼はとても優しいいいおじさんなのだ。 「どうかしたか?」 ドアを開けて出てきた息子の方は普段の愛想はどちらかといえば悪い。 しかし、幼馴染のを相手にするときは、多少なりとも愛想は良くなるようで声音は優しい。 「はい、これ」 そう言ってコンビニの袋を渡した。 「何?」 「義理だから」 ああ、それか。 甘いものを口にすることが殆どないので、今日の行事は胸焼けの原因だが、それは言わずに「わかってる」と返した。 「送るか?」 「送らせてあげよう」と返したに宮田は苦笑して「待ってろ」と言って一度家の中に戻った。 コートを着て出てきた宮田は「行くぞ」と言って歩き出す。 「もしかして、大漁だった?」 伺うように言う彼女に宮田は苦笑して「義理なら」と返す。 むむ、とは黙り込む。 「手伝おうか?」 の言葉に笑う。「頼む」と。 そうか、やはり自分があげたものは... の家の前まで来たところで「やっぱ、『きのこ』よりも『たけのこ』だよな」と突然言われた。 は最初きょとんとしたが、「でしょ?」と得意げに言った。 「じゃあ」とが言うと 「ああ。あ、そうそう。ちゃんと体にも気をつけるから。多少の無理は仕方ないとしても、な」 と彼が言う。 「ちょ、待って。ストップ...もう見ちゃったの?」 彼はこともなげに頷いた。付箋の裏面に書いていたものに気が付いたらしい。 はパクパクと口を動かしてみたものの言葉が出ない。 しかし、そこは気を取り直して慌てて「言っとくけど、義理なんだからね!義理。義理の意味分かる?!」と念を押した。 「の場合、『本命』だろう?」 しれっという幼馴染に顔を真っ赤にした彼女は叫んだ。 「一郎のバカ!」 その言葉の勢いのままに自宅に逃げ込む。 玄関の前ではを送り届けた宮田が少しの間佇んでいたが、そのまま背を向けて帰っていく。 そろりと玄関を開けて外の様子を伺ってみるとちょうど宮田も振り返って目が合う。 仕方ないのでがそのドアの隙間から手を伸ばして手を振ると宮田もそれに応えるように手を軽く上げた。 来年は『本命!』と書いて『きのこ』を渡すべきだろうか... 1年後のことを悩み始めただった。 |
何か良いタイミングでリクエスト(?)されましたので...
秋月さんへ捧げます。(良いタイミングでしたよ!!/笑)
桜風
10.1.13執筆
10.2.14掲載
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