| 千堂はジムから帰った後、いつものようにロードワークに出ていた。 いつものコースを走っていると祭囃子が聞こえてくる。 よく考えたら今は夏祭りがあちこちで行われている。 まぁ、今の自分には関係ない、そう思い走り続けた。 「こんにちは。」 女の子の声がして立ち止まり、振り返った。 ガードレールに腰掛けて足をブラブラしている髪の長い女の子がいた。 「あ、間違っちゃった。こんばんは。」 「ああ、こんばんは。どないしたんや、こんな所で。そろそろ帰らんと、親が心配しとるんやないんか?」 「んー、私既に親不孝者だから。...お兄さんこそ、何で走ってるの?」 「強い奴がおんねん。そいつに勝つためや。それより、親不孝者って何や?」 「ぶっちゃけ私、幽霊なんだ。」 「ほな、さいなら。」 本当の事にしても、冗談にしても付き合っていられない。千堂は再び走り出した。 しかし、 「ちょっと待ってよ。せっかく波長の合う人と逢えたのに。」 と言ってさっきの女の子が突然前に現れた。 (うわぁ、ホンマもんの幽霊や。) 千堂は頭を抱える。 「幽霊なら成仏したらええやん。何でまだコッチおるの?」 「心残りがあるから。よくある話でしょ?」 「心残り?何や。」 「私デートしてみたかったんだ。」 「デェトぉ?!それだけで成仏出来んのか?」 「『それだけ』って、随分な言い草だなぁ。16歳のうら若き乙女が、デートの経験無しでどうやって成仏できるのよ?!」 (16やったんか。ワイはてっきり中坊になったばっかりかと思っとった。) 「わかった。デートできたら成仏するんやな?少し戻ったら夏祭りしとったわ。そこでええか?」 「本当!?ありがとうお兄さん。私は、。ちょっと待てて。」 そう言って一度消えたは再び現れた。白いワンピースだった服が、浴衣に替わっている。 「幽霊ゆうんも便利やな。ワイは千堂武士や。」 神社へ行くとかなりの人出だった。 千堂が振り返るとが人ごみに流されていた。 (あーもう。何しとんのや。) 人の流れに逆らっての元まで行き、手を繋ぐ。 一般論では幽霊は冷たいと聞いていたが、は自分とあまり体温は変わらない。 まぁ、幽霊でも色々個人差があるのだろうと千堂は一人で納得して手を繋いだまま歩いた。 「千堂さん、頑張って!」 「おう、任せとき!」 金魚すくいを真剣にやっている千堂をが後ろから応援する。 しかし、網が破け、金魚が逃げる。 「ニィちゃん、あかんな。」 「おっちゃん、もう一遍や!!」 「まいど!」 何度目かの挑戦で何とか一匹掬えた。 「...は、要らんわなぁ。ワイのとこもトラがおるし。おっちゃん、これ戻したって。」 「ニィちゃん要らんのか?隣のネェちゃんにあげたらええやろ。」 「こいつは、あかんのや。うちには猫おるし二人ともちょお無理や。」 そう言って千堂は店主に金魚を返しての手をとって歩き出した。 「しかし、が幽霊やったらマシなデートもできんなぁ。」 「そんなことないよ。凄く楽しかった。ありがとう、千堂さん。」 そう言っては千堂の頬にキスをして、消えた。 突然現れて、突然消えた。 千堂は呆然として、の唇が触れた頬に触れた。柔らかい感触がまだ残っていた。 「何や、もう終いやったんか。」 千堂は呟いた。 それは、夏の夜の儚い夢だった... 数日後、ロードに出ていた千堂が病院の前を通ると、 「こんにちは。」 と頭上から声がした。 見上げると、病室の窓から顔を出していたのは、あのだった。 「な!?な??...」 千堂は口をパクパクしながらを指差した。 「ごめん千堂さん。私生きてた。事故で重体だったんだけど、あの夜に意識が回復したの。千堂さんのお陰かな?」 千堂は一度視線を外して苦笑し、再びを見上げて口を開いた。 「それやったら、退院できたらまたあのガードレールで待っとき。今度はマシなデートしたるわ。ああ、でも夜遅いんはあかんで?」 「本当?!約束だよ?」 「ああ、約束や。」 あの日の儚い夢は『夢』で終わらず、『現実』という続きが待っていた。 |
千堂は夏の男です。
少なくとも私はそう思っております。
本当はヒロインが消えたところで終わる予定でしたが、後味が悪いと思ってしまったのでこうなりました。
桜風
04.8.14
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