| 鷹村がアパートの下まで帰ってくると部屋の電気が点いていることに気がつく。 ああ、また姉が来てくれているのか... そう思って階段を上がってドアを開けた。 「いつも悪ぃな、京姉」 そういいながら玄関の靴を見る。 見慣れない、スニーカー。姉がそれを履いているところを見たことがない。 あれ?と思って顔を上げると「さあ、跪いて礼を言え!」と仁王立ちしている、久しぶりに見る人物が立っていた。 「げ!?!」 「あら〜。覚えてたの??感心、感心。いい子ね」 そういって彼女はそのまま部屋の中へと戻る。 「ち..ちょっと待て!何でがここに居るんだ!!」 靴を脱いで慌てて家の中に入った鷹村がそう聞いた。 はじっと鷹村を見た後、自分の胸の前で手を組んで見上げる。所謂上目遣いだ。 「、お願い。今日、守ちゃんのところに行けなくなったの!代わりに行ってくれないかしら??」 そういい終わり、組んでいた手を下ろす。 「と、君の最愛のお姉さまであり、あたしの親友である京香に頼まれたため、渋々仕方なく面倒くさいと思いながらも来てみました。今は何食べても大丈夫って聞いたけど、ホント?」 言われてみて、気がつく。 美味しそうな匂いがしている。 「か、鍵は?!」 「京香から預かった。明日返すよ。で?大丈夫なのね??」 鷹村はこくりと頷いた。 理由が分かったらだいぶ落ち着いた。 「しかし、久しぶりだな。あの寂れた喫茶店はそろそろ潰れたか?」 意地悪く鷹村がそういった。 「寂れた喫茶店?どこにあるのかしら、そんなお店。ちなみに、我が家の喫茶店は高校生が学校帰りに良く来てくれるから結構繁盛してるよ。昼はサラリーマンのおじ様たちが来てくれるし。お店を改装するくらいの資金は稼いでるの」 台所で手を動かしながらが返す。 「何だよ、まだ潰れてねぇのかよ」 「美人マスターが居るから潰れるわけないじゃない」とは笑いながらそう言った。 鷹村が実家を出て一人暮らしをするようになってから時々世話になっていたのがの家の喫茶店だ。 は京香と友人で鷹村を昔から知っていたこともあり、何くれと世話を焼いてくれた。 正直、当時の自分はそれでとても助かっていたし結構頼りにしていた存在だった。 そして、彼女の父親が庶民の生活というものを教えてくれた。 「そういや、親父さんはどうしてる?」 「んー、まあ...」と濁すに鷹村はそれ以上深くは聞かない。 元々自分がの家に行っていたときも、彼女の父親はあまり元気ではなかったように思う。 先ほど、が『美人マスター』といっていた。 店を継いだということなら、彼女の父親は良くないのかもしれない。 「ほい、どうぞ!」 そういってが皿をどん、と鷹村の前に置く。 皿に乗っているのは、ハンバーグだ。 昔、の父親が良く作ってくれた。 「冷凍庫にあと2個入れておくね。今焼いてるから電子レンジであっためたらすぐに食べられるよ」 鷹村の前に食事を並べ終えたが台所で残りのハンバーグを焼きながらそう声をかけてきた。 素朴な、ソースとかそういうのに全く凝っていない家庭的なハンバーグだ。 けれども、懐かしい味がした。 「どう?」とが味を聞いてくる。 「まあまあだな」と応えると「素直じゃないわね」と笑われた。 「ごっそさん!」と手を合わせて鷹村が声を出す。 懐かしくて、黙々と食べてしまった。 は振り返って「はやっ!」と苦笑する。 「お茶要る?」 「おう」 の淹れてくれたお茶をズズッと啜った鷹村が「今度」と言う。 「んー?」 「今度、うちのジムのやつ等連れて本当にいるのか甚だ疑問だが、美人マスターがいるとか言う喫茶店に行ってやるよ」 「お?ホント?じゃあ、ガンガン食べて、じゃんじゃんお金払って帰ってね」 タチの悪い飲み屋みたいな言い様だな... 苦笑した鷹村は「言っとく」と返した。 「じゃあ、あたしそろそろ帰るわ」 「おう。悪かったな、態々」 玄関まで鷹村が見送りに来た。 「ははっ。守チャンのためですから」 「気持ち悪いからお前が『守ちゃん』って言うな」 鷹村は苦々しい表情を作ってそう言う。 その表情を見ては笑い、「じゃあねー」と言って玄関を出た。 「気をつけて帰れよ」 鷹村がそう声をかけるとは振り返って返事のかわりに投げキッスをしてくる。 先ほど同様、苦々しい表情を浮かべた鷹村はそれを甘んじて受けた。 姉と対極的な性格のは、やはり姉と同じくちょっと苦手で、そして困ったことに疎ましいと思えない存在だった。 「ったく、相変わらずだよな...」 ガシガシと頭を掻きながらそう呟き、家の中へと入る。 鷹村は気づいていないが、そう呟いた彼はとても優しい目をしていた。 |
桜風
09.6.29執筆
09.7.19掲載
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