trick or treat





商店街のある店舗を目指してわたしは歩く。

物陰から店先を覗く。

うーん、見えない。

仕方なく、そのお店に向かって足を踏み出すと肩をポン、と叩かれて思わず小さく声を漏らす。

「何やってんだ、

ギギ、と錆びたブリキのオモチャのように振り返ると、ちょっと大きめのバッグを持っている木村達也が立っていた。

「う、うぃっす!」

「おう。んで、どうしたんだよ?もの凄く不審人物だったぞ?」

『不審人物』と言われて反論できない。自覚は有ります...

「別に、特に何もないけど!?」

木村は何が楽しいのか、クツクツと肩を震わせている。

「何?」

「いや。ウチ、来るんだろ?」

木村はそう言ってわたしの腕を引いていく。


「こんにちは」

お店の中にいるおばさんに挨拶をしながら、やっぱり木村に腕を引かれて家の中へ。

「何か取ってくるわ」

そう言いながら部屋を出て行く木村の背中を見送ってわたしは呆然とした。

え、わたし、何しに来たんだろう??

取り敢えず、木村に言われるままに部屋で大人しく待ってみた。

部屋の中には相変わらず大きな水槽があって、変な魚が悠々と泳いでいる。

水槽の前に陣取ってそれを覗いていると、カチャリとドアが開いた。

「お前、いっつもれーコ見てるな」

笑って木村が言う。

「『れーコ』?『アケミ』じゃないの?」

わたしが言うと

「いつの名前だよ」

木村は苦笑をしながら言う。

ああ、また振られたのかと長い付き合いゆえの勘を働かせて取り敢えず、敢えて何も言わずにスルーした。


目の前にグラスを出されて、それを受けとる。

一口飲んで、自分の用件を思い出す。

「木村」

「んー?」

わたしが続きを言うために口を開くとずい、と木村が顔を近づけて

「trick or treat!」

と言う。

わたしが言おうとした事を言われて続きを言えていない。

「何もねぇの?」

木村がニヤニヤ笑いながら言う。

貰うつもりで来たから、何も持っていない。

じっと木村を見ていると、突然噴出した。

何だろう、と思っていると木村は

「手ぇ出せ」

と言う。

言われて首を傾げながら右手を出すと

「言わないの?」

と木村が言うから慌てて

「trick or treat!」

と言うとその大きな右手の拳がわたしの掌の上で開く。

ぽとりと落ちてきたのはメロン味の飴玉で、それはわたしの好きなもの。

驚いて見上げれば木村はイタズラが成功したと喜んでいる子供の顔をして笑っていた。



trick or treat!

お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ。







桜風
07.10.29
07.11.25(再掲)


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