his past time
男の子と女の子がいる。あれは...俺と?
2人はドアの隙間から部屋の様子を窺っている。
そうだ、思い出した。
これは父さんと母さんが離婚する少し前の頃だ。
両親は殆ど毎晩喧嘩していたみたいだった。
父さんたちは、俺たちが寝た後だから知らないと思っていたんだろうけど、1度だけ2人が喧嘩しているところを見た。
夜中に喉が渇いたってに起こされて水を飲みに台所に行くと2人の怒鳴り声が聞こえてドアの隙間から見たんだ。
いつも穏やかに笑う母さんと、強くて優しい父さんが別人みたいだった。
一緒に居たは怖かったんだと思う。俺のパジャマをギュッて握ってくっついていた。
俺たちはそのまま水も飲まないで部屋に帰り、お互い強く手を繋いで眠った。
それから数日後。
外で遊んでいた俺たちが帰ると、玄関に大きな鞄を持った母さんが居た。父さんも腕組みをして立っていた。
「お母さん、お出かけするの?」
が母さんに聞くと、難しい顔をして母さんが笑った。
「そうね、も一緒よ。」
よく見たら、母さんの鞄の隣にのお気に入りの鞄も置いてあった。
母さんはの手を引いて、
「それじゃあ、一郎のことを頼みますね。」
と父さんに言って膝を折り、俺と目の高さを合わせて、
「一郎も、元気でね。」
と別れの挨拶をしてきた。
このとき、もう母さんと会えなくなるんだって思った。
も分かったんだと思う。
だから、
「一郎は?一郎も一緒がいい。」
と言って俺の腕を強く握って離さなかった。
「。」
「おい、。」
母さんと父さんは、俺からを引き剥がそうとしたけど、はわんわん泣きながらも俺から離れようとしなかった。
母さんは困った顔をして笑い、のお気に入りの鞄を返した。
「のこともお願いできますか?」
母さんが言うと、父さんは俺から引き剥がそうとして掴んでいたから手を離し、
「いいのか?」
と母さんに向き直った。
母さんはゆっくり頷いた。
「わかった。のことも任せろ。」
それを聞いて母さんは俺たちに、いつもの穏やかな笑みを向けた。
「、一郎と仲良くするのよ。」
「一郎、の事を守ってあげてね。」
「うん、約束するよ。はボクが守る。」
そう言って俺は母さんに小指を出した。母さんはそれに自分の小指を絡ませて指切りをしてくれた。
「それじゃあ、2人とも、元気でね。あなたも体に気をつけて下さい。」
母さんはあの大きな鞄を持って家から出て行った。
そして、2度とこの家に帰ってこなかった。
ぐはっ。
腹に衝撃があった。
目を明けると、仁王立ちして俺を見下ろしているの姿がある。
「...」
「こんな所で寝ていられたら邪魔なの。今洗濯が済んだみたいだから干してきて。」
「お前、今、俺の腹踏んだだろ。」
「鍛えているから大丈夫でしょ?」
「せっかく気持ち良く寝ていたのに。」
「寝るなら自分の部屋で寝なさい。居間はこれから掃除機かけるんだから。」
差し出されたの手に掴まって起き上がる。
「...何?」
じっとを見ている俺を訝しがって聞いてきた。
「いや、お前も随分逞しくなったなと思って。」
「それ、褒めてんの?」
「当然。」
「じゃあ、『ありがとう』って言っておきましょうかね。」
そう言っては掃除機のスイッチを入れた。
思えば、あの頃から『は俺が守らないと』って強く思うようになったんだ。
振り返ってを見る。
本当にしっかりして逞しくなったと思う。もう、俺が必要ないんじゃないかって思うくらい。
それは、やっぱり寂しい事だな。
この先きっとお前を守るって奴が出てくるだろう。
だから、せめてそんな奇特な奴が見つかるまで俺が守り続けてやるよ。
宮田の思い出話。
だから彼は『お兄ちゃん』でいようと思っているのです。
桜風
04.5.15
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